グラデーションクエスチョン

第1話 神の証明と不在証明

 俺は今まで神という存在を信じたことがない。キリストも仏も、勿論空飛ぶスパゲッティーモンスターも信じてはいない。信じなくても生きることが出来たからだ。

 そんなものはいてもいなくても同じだと思っていた。その点では幽霊と同じ捉え方だ。


 だから、神頼みというものもしたことがない。初詣でお賽銭を入れたりはするが、願い事はしたことがない。願っても叶うはずがないと思っているから。

 叶うのは自分の努力のおかげ、叶わないのは自分の努力不足。それがこの世の真実であると思っている。


 心のどこかで、証明も出来ないのに――確信していた。

 けれど俺はその日、そんな確信を捨てなければいけないと思うほどの出来事に遭遇した。


 誰に命令されたわけでもないのに、俺は今日早朝に登校した。


 校内を探そうと思い立った時、俺はまず屋上を目指した。


 例えば今日という日付を、美瑠子が選んだことに何らかの伏線があったなら、俺が屋上を目指したことにも、何らかの説明ができたかもしれない。

 後に知ったことだが、美瑠子は日直という立場を利用した。だから、美瑠子が日直になる日が今日だという会話を誰かとしていたなら、俺が早起きしたこともそれが伏線だったと思えるだろう。


 でも、今日という日までにそんな会話をした覚えがない。日直という単語さえ、俺は発していない。


 そして、俺が屋上に向かったことも説明できない。今日という日を特別視できなかった時点で、美瑠子と屋上の関係性を俺は考えることが出来なかったのだから。


 伏線を無視し、あらゆる因果を超越して、俺はその瞬間屋上にいた。


 だから俺はその日、神の存在を感じてしまった。

 

 そんなものはいないと感じながら、神様ありがとう――と思ってしまった。


 俺は右手で握った美瑠子の左手を感じながら、そう思った。

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