第2話 ぼくと彼女の違い

 ティラノサウルスの容姿は研究によって、図鑑に載る姿が変わり続けている。子供の頃の当たり前は変化し、もうかつて抱いた夢の世界は消えてしまっている。


 夢を捨てても捨てなくとも、勝手にそういうものは消えていくものだ。


 大人になるというのはそういうことだと誰かが言い、それに反論する正義感の強い人が夢を叶える。この世界はそういう風にできている。

 環境の変化を物ともせず、純粋な願いを持ち続ける人間しか、幸せにはなれない。

それ以外の人々は、どこかで妥協しこれでいいのだと丸め込まれ、世界を端から見るだけの存在になる。


 ぼくもその一人だ。


 鳥籠にさえ入れず、空を飛ぶことも出来ない。世界の端でさえ仲間を作ることができない。


 孤独で、不幸で、怠け者――。それがぼくだ。


 挫折して、失敗して、否定されても、ぼくは戦おうとはしなかった。努力しようとはしなかった。そんなぼくが不幸になるのは当たり前だ。


 ぼくは人より頭が良いと理解している。他人と自分の違いを知っている。驕り高ぶりではなく、厳然たる事実としてそれを理解している。

 だからぼくは、自分の違和感を初めて認知した時から、その正体を理解していた。その病名を知る前から、そんな病気を患っていると感じていた。


 苦悩することなく、結果と結論を知る力を持っていた。

 だからずっと、ぼくの人生は諦めの連続だ。


 弟と同じように黒いランドセルを所望したかった。けれど両親が買え与えるのは赤い方だと知っていたので、ぼくは何も言わなかった。本当は可愛らしい服なんて着たくなかった。でも両親を心配させたくなかったからぼくは着た。まあもっとも、高校に入ってからは限界がきてそんなことは出来なくなったが。


 諦めが良く、潔く、どこまでも軽薄で薄情な人間がぼくだ。


 そして、それがぼくなら、決して自分を曲げず信念を曲げず、不変を貫く彼女こそが真の幸せを獲得する人間だ。

 初めて出会った時から、そう確信している。初めて彼女を見た時から、そんなところに魅力を感じた。


 そんな彼女こそが、ぼくの人生最後の挫折だろう。叶わない恋、なんとも煌びやかで美しく、素敵な挫折じゃないか。

 そのあとで死ねるなんて、ぼくは幸せ者だ。

 

 だからぼくは職員室に入り、日直の仕事として今日使う理科室の鍵を取るついでに――屋上の鍵を取った。

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