第11話 そんな家族と決断

 病室は薄暗く、不気味な様相を呈していた。何人かは既に就寝していたので、俺は出来るだけ音を立てないようにゆっくりと進んだ。

 そうして、白いカーテンを開き、母の顔を見た。

 容体が安定し、酸素マスクが外され、母の顔は安らかだった。ただ寝ているように見えた。

 いや、ただ寝ているだけなんだから当たり前か……。こんな描写をしたら死んでいると思われるかもしないな……。


 もし母さんにこれまでの経緯を話し、病室を移りたいか聞いたらなんと答えるだろう。

『寝てるだけなんだから、豪華な部屋なんて勿体ないよ』

 そんな幻聴が聞こえた。


 俺は思わずニヒルな笑みを浮かべた。


 俺はただ、母さんと一緒にいたいだけなのだと再確認した。自分がマザコンだと認知するのは、年頃の多感な時期な俺としては苦しいものがあった。


 だがまあ、そんな家族があってもいいだろう。


 母と子は血の繋がりがなく、子は自分の出生について詳しいことは知らず、父親が会いに来ても子は憎んだりはせずただ気に食わないと思っている。


 そんな子がいて、そんな家族が幸せになってもいいじゃないか。金の有り無しは関係なしに、父親の有り無しは関係なしに、血の繋がりは関係なしに――幸福になることだってあるだろう。


 結局美瑠子の予見通りということだ。俺は本心を行動に移すことでしか、気を静めることはできないのだろう。


 俺は立ち上がると、病室を後にした。

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