第7話 お見舞いと再会
学校にいる間、早く時間が過ぎることを願う自分と、遅く過ぎることを願う自分に潰されそうになっていた。
母さんの傍にいたいと願う自分と、傍にいることを怖がる自分がいる。
相反し、矛盾し、対立する思考は――心を握りつぶしていく。
悩んでいた。けれど、どんなに悩んでも、時間は進む。放課後を告げる鐘がなり、俺は前へ進まなければいけなくなった。
「一緒に行こうよ」
何も言っていないのに、翠はそこにいた。
美瑠子がいないか周りを見渡したが、もう帰ってしまっていた。昨日の車内での会話を思い出し、やっぱり謝らなけばと思っていた。
心配してくれていたのに、俺はそれを無下にしてしまった。どこまでも愚かなことをした。でもだからこそ、今は会わせる顔がないとも思っていた。
昨日俺はどうやら走って行ったみたいだが、普通にバスが出ていたのでそれを使うことにした。
病院前のバス停で降りて、昨日とは違い呼吸が落ち着いたまま病院に入った。そして昨日は気づかなかったがちゃんとエレベーターもあった。多分美瑠子は俺を落ち着かせるために、時間をかけて病室に連れて行ってくれたのだろう。
「あ、そうだ。今日はお土産持ってきたんだ」
翠はカバンをがさごそと漁って、メロンを取り出した……。なんだろう、今日一日ずっとカバンにメロンを入れて過ごしていたと思うと、なんか凄いシュールだった。
「メロンはいいけど、ナイフは?」
「あっ!」
翠は大事なものを忘れたことに気づいたらしく、そそくさとメロンをカバンにしまった。
「まあ、多分今日は目覚めないだろ。医者も二週間は入院が必要だって言ってたし」
そんな雑談をしながら病室に入ると、母さんのベッドの横に誰かが座っていた。
医者か看護師だろうかと考えたが、その人物はビジネススーツをぴしっと着込んでいた。
後ろ姿しか見えないが、痩せ気味の中年男性であると推察できた。誰だろう、母さんの知り合いだろうか。
そして、この胸にかかる黒い靄のような不安はなんだ――。
立往生を続ける俺に向かって、翠は「どうしたの?」と聞いた。
「嫌な予感がする。ここから先に進んだら、なにかが変わってしまう気がする」
根拠のない不安だけで、俺の足は動かなくなった。
「私もそんな気がする。でもね――」
翠は俺の手を握ると、目をしっかりと見つめて言った。
「あそこには和くんの大切な人がいるの。ここで進まないなら男じゃないよ」
俺は、小さく、そうだなと呟いて、足を前に出した。
近づく俺に気づいて、スーツ姿の男は振り返った。
俺はやっぱり会ったことがない人物だった。けれど、その中年男性は俺を知っているらしく驚いていた。
「大きくなったな。会えて嬉しいよ」
俺はそんな言葉をかけられて、無意識に拳を強く握り締めた。
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