第12話 あやふやな結論と空飛ぶスパゲッティーモンスター教

「なんだかんだ言っても、幽霊なんてものはいないものなのかね」


 カバンを取りに教室に戻った俺は、まだ帰っていなかった美瑠子に向かって聞いてみた。


「どうだろうね。ぼく個人としては否定したいところだが、完全には否定できないさ」

 いつも通り得意気な顔でそう言うと、美瑠子は俺に近くの席に座るように指差した。俺は席に座ると、窓辺を眺めながらため息をついた。


「時に、空飛ぶスパゲッティーモンスター教を知っているかい?」

 奇妙な名前を聞いて、俺は首を傾げた。


「説明は長いから省くけれど、簡単に言えば「この世界はなんでもあり」って考え方なんだ。悪魔の証明が示すように、なにかを完璧に証明するのは不可能なんだ。神様がいるのかいないのか誰にも分からない。だから、空飛ぶスパゲッティーモンスターがいないなんてことは誰にも証明ができない」


 美瑠子はスマートフォンで検索し、空飛ぶスパゲッティーモンスターを見せてくれた。なんとも奇妙で珍妙な画像だった。


「奇妙だろう?でも、君はこれがいないって完全に否定することなんて不可能なんだ。だから、幽霊がいるって思うことで、誰かが救われるならそういうことにしておいていいんじゃないかなあ」

 なんとも無理矢理で、とんでもない理論だと思ったが、結局馬鹿な俺にはなんでもありだと思っていたほうがいいのだと思った。


 難しいことは抜きにして、ただ翠が笑っていられるように、ただ世界が少しでも優しくあれるように、俺は願うだけでいいのだと思う。


「それにね、あの後ぼくは音楽室で起こった停電について調べてみたんだが、原因が分からないんだ」

「え……?」

「蛍光灯は四日前取り換えたばかり、灯具も一週間前に点検済み。ブレーカーが落ちていないか教職員に確認してみたがそんなことは起きていないそうだ」

 俺はどうやら体調不良を起こしたらしい。足が震えている。


「もしかしたら本当に、音楽室には幽霊がいるのかもね」


 美瑠子がそう言ったあと、俺は思わず笑ってしまった。


「じゃあ、それは、もしかしたら――」


 この世界がなにも確定することが出来ないほど曖昧なら、誰かが救われることを信じたっていいだろう。その日俺はそんなことを知った。

 人を救う一つの方法を理解し、幼馴染が世界を救うであろう未来を見た気がした。


 そういうことにしておくことにした。それが一番、幸せだ。

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