第11話 妥協と結果
ここから語るのは童話のような、ご都合主義の話だ。
皆が、誰かの為にと、どこかで折り合いをつけて、大団円で終わる話だ。
まず、翠は皆の為に馬鹿みたいな話を触れ回った。その話は合唱部の部長まで届き、怖がっている部員たちに響き、恐怖の伝染は止まり、幽霊騒動は一通りの落ち着きを見せた。
生徒会長もまた折り合いをつけた。小さな嘘を、大きな愛情から生まれた一つの嘘を、皆の為に変えてくれた。
結局、人っていうのは案外オカルトなものを信じてはいないのかもしれない。信じているのは、信頼する人の言葉だけだ。
だって、それだけで人は、こんなにもあっさりと救われることがある。その言葉はたまに嘘も混じるけれど、そんな嘘も含めて信じているんだろう。案外皆、そんなおとぎ話のような根拠のない信頼を持って生きている。
普段はそんなものを感じることはないけれど、誰かかが誰かを救いたいと願ったとき、それはひょっこりと顔を出す。
騒動が落ち着きを見せ、すっかり幽霊の噂も聞かなくなった三日後、俺と翠はオカルト研究部に来ていた。勝手に話を書き換え、吹聴して回ったことを謝りに来たのだ。
しかし、二人は全く怒っておらず、逆にお礼を言われてしまった。心なしか黒猫も好意的な仕草を見せた。
去り際に「また来てね」と言われたのは、なんだかとても嬉しかった。
そして、放課後。俺は翠を置いて一人で生徒会室へ向かった。一緒に行くと、あの会長はいらないことを喋りそうだったからだ。
「やあ、君か」
生徒会室はまたも会長一人だけだった。生徒会執行部は一人だけだけなんじゃないかと疑ってしまう。
「今回はありがとうございました。俺の勝手を許してくれて」
会長は今日も事務仕事に勤しみながら、俺の言葉を聞いている。そして、前回と同じように一通り終えてから俺を見て言った。
「謝罪すべきなのは私だろう。つまらない意地を張ってしまった」
会長はいつもとは全く違う雰囲気で言った。そんな様相に俺は面食らってしまった。
「そんなことは……、できることなら会長のしたことは、あの怪異譚は残してあげたかった。でも、俺にはあんな下らない終わらせ方しかできなかった」
「そんなことはないだろ。君が吹聴した話は、背景もなければ性別さえ語られていないからね。いつの日か尾ひれがついて、私の弟ということになるかもしれない」
少しだけおどけた言い方で会長は言って、俺はどう反応していいのか分からなかった。
「私はね、今まで幽霊なんて信じたことはなかったんだ。でもね、あの日幽霊の話をされたとき、信じてみたいと思った。あの子がまだどこかにいてもいいと思った」
反省と少しだけの後悔を添えて、会長は言った。
「君の想い人を怖がらせたことは、素直に申し訳ないと思うよ。自分が恥ずかしいよ」
「そんなことは、気にしなくていいですよ。あいつはあんなことでくじけたりはしませんから」
俺は精一杯の笑顔で、一つの真実を言った。
「だってあいつは、世界を救う女ですから」
俺はその日、その時、そういうことにした。
目の前で傷つき、くじけそうになっている人に、安心して欲しくて根拠のない言葉を放った。そんな俺の言動に、行動に、会長は一瞬噴出すように笑うと、すぐに高らかに笑った。
「そういうことにしておこうか」
会長の提案に、俺は首を縦に振った。
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