第10話 新怪異譚と捏造

 その夜、俺は翠に電話をかけた。

 数回のコールあと、翠は明るい声を響かせた。

「もっしー、どちらさんですか?」

「俺だよ。名前登録してねえのか?」

「してるけどね、和くんだけはしてない」

 意味不明だが、声を聞けば俺だと分かるからという理由だと思うことにした。


「もう寝るところか?」

「いやまだ寝ないよ。だから全然恋バナに付き合えるよ」

 おそらくサムズアップしているのが、声だけで分かるほど生き生きとした言い方だった。


「お前と恋バナなんて死んでもやらん」

「えー、美留子ちゃんとならやるんでしょ?」

 なにを馬鹿なと思ったが、それらしいものをしたことを思い出し、はぐらかすことにした。


「そんなことより、お前に聞かせたい話があるんだ」

「なに?」

 俺は必死に考えた創作話を、翠に話した。

 それは音楽室に現れる幽霊の話だった。しかし、それはかつて学校にいた生徒ではなく、生徒会長の弟でもなく、それらを合わせ改変を加えた話だった。

 つまりは全くのデタラメで、完全な嘘だった。

 でも俺は、翠のことをよく知っている。つまりはどんな話が好きなのかも知っている。

だから、俺は翠に信じてもらうために、翠が感動する話を聞かせた。


 筋書きとしては、実は音楽室の幽霊は良い幽霊であり、現れるのは部員を応援したいから。しかし、現れることで勝手にポルターガイストが発生してしまったというものだ。

 なんとも馬鹿らしく、自分でも笑いそうになった。


「嘘でしょ」

 案の定、あっさりとばれた。

「でも、和くんがそうすべきだって言うなら、そうするよ」

 柔らかな声色で翠は言った。

「頼んでいいか?」

「任せといてよ」


 自信に満ちた声で言うと、翠は少し笑った。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る