第8話 貉と穴

 俺はどうすればいいのか悩み始めると同時に、どうやって美瑠子が真実にたどり着いたのか考えていた。確かに美瑠子が仕入れた情報は真実にたどり着くための鍵ではあるのだが、それだけで全てを気づけたというのはなんとも不思議だった。


「え?そんなものは簡単だよ」

 美瑠子はそのことについて解説を始めた。

「そもそも、幽霊ってのは女の子なんだろう?なのになぜ、女性である生徒会長が恋に落ちるというんだい?」

 幽霊という曖昧な存在性のせいか、俺は気づかなかった。


「勿論、ぼくは同性愛を否定したいわけではないが、一般的ではないのだから生徒会長の言葉が完全なる嘘だと考えたわけだ」

 俺は時間をかけた聴取によってそれを推理したが、美瑠子はそんな面倒なことをせず、頭の中だけでそれを知っていたというのは、なんだか悔しいことだった。

「おそらく、合唱部の部長は幽霊の詳細は話さず、部員が怖がっているということだけを話したんだろうね。だから性別が分からず、恋をしたという矛盾する発言をしてしまった」

 美瑠子は腕を組み、少し楽しそうに語っている。


「そうして、さっきの情報が登場するわけだね。生徒会長の悲しい過去。そして所謂怪異や幽霊の話では欠かせない観念――伝承や言い伝えによってそれらは生まれるという考え方だ」

 

「同じ穴の貉」という言葉がある。貉とは狸やハクビシンや穴熊の総称であり、それらは正確には異なるがほぼ同じものだという意味だ。また狸は狐と同じように人を化かすと言われているため、不可思議な体験をした人に「それは大体貉のせいだ」と言っていたそうだ。

 分からないことや、摩訶不思議で不気味な現象には、そういった理由付けがされ、その理由付けが怪異譚や幽霊譚になる。


 突然電気が消えたり、突然人が倒れたことへの理由付けに、数年前なくなった女生徒の話を利用したのと同じだ。


 そして、生徒会長がしたのもそれと同じ――つまり、同じ穴の貉。


 俺は自分の中で、美瑠子がどうやって真実にたどり着いたのか納得することが出来た。とりあえず、美瑠子を不気味に思わずに済みそうだった。


「それで、どうするのかな?正直ぼくはどう行動しても、誰かの願いを踏みにじる未来しか見えてこないよ」

 美瑠子でもお手上げなら、俺にだってそうだ。


 俺は悩んだ。けれど、答えは決まっていた。諦めるということはあり得なかった。今回もあいつは、怖がりのくせに首を突っ込み、案の定恐怖でどうにかなりそうになっていた。それでも誰かの為にあいつが動くなら、俺はあいつの為に動きたかった。


「とにかく、生徒会長が発言を撤回さえすれば、少しは幽霊の信憑性も薄れるだろう。だから、生徒会長を説得してみる」

 俺が結論を出すと、美瑠子はにやりと笑って「良い判断じゃないかな」と言った。


 善は急げと俺は立ち上がった。というか、今行動しなければ決心が鈍ってしまうだろう。俺は僅かな勇気だけを頼りに、生徒会室に向かった。

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