第7話 劇場版と放映版

「なるほどね。正直に言おう。ぼくには全て分かってしまったよ」

 

 俺はドラえもんの映画が好きだ。特にドラえもんがひみつ道具を使えなくなってしまうやつが好きだ。万能キャラの万能アイテムがなくなり、皆が知恵を絞って頑張るのが好きだ。

 だから、時々美瑠子の頭が怖くなる時がある。美瑠子の万能アイテムは彼女の頭の中にある。それを奪うことは出来ない。完全な万能キャラだ。

 つまり、ずっと放映版のドラえもんなのだ。


「そう怖いものを見るような目で見るな。ぼくもぼくなりに調べてみたんだ。その調査の結果だよ。なにも情報なしに全てを見通したわけじゃない」

 暖かな笑みで美瑠子は言った。俺を安心させたかったのか、特別視されるのが嫌だったのかどちらかだろう。


「とりあえず、君の推理を聞こうかな」

 俺は腕を組んで少し考えてから話し始めた。

「おそらく、オカルト研究部は嘘もついていないし、なにか思惑があって心霊話をしたわけじゃないだろうな」

 完全な主観だった。ただの印象でそう思っていた。でもそれはきっと正しい。悪逆非道な推理小説じゃないんだ。優しい奴に見えて実は人殺しなんてことは、この世界じゃ滅多にありゃしない。

「合唱部で起こった心霊現象は、ただの思い込みだろうな。心霊話を聞いてから偶然電気が消えたもんだから、不安になって倒れちまった奴がいただけだろう」


 昔テレビで昼休みにコックリさんをやった教室の生徒が、授業中に次々と倒れてしまったという話を聞いた。原因はコックリさんの呪いではなく、いや言うなればコックリさんの呪いだが、ちゃんと科学的に説明できるものだ。簡単に言うと思い込みの力。呪われていると思い込み、一種のヒステリーを起こしてしまったのだ。


「だから分からないのは、生徒会長の発言だよ」

 それだけが意味不明で、難解だった。


「うん、やっぱり君は頭がいいね。概ね同意するよ」

 概ね、という言葉を聞いて、俺は皮肉な笑みを浮かべた。美瑠子がたどり着き、俺が着けなかった到達点は大きな差があるだろう。なのに概ねと言われたのは、俺にとっては嫌味に聞こえる。


「そんな顔をするな。言っただろ、ぼくもぼくなりに調べた結果なんだよ。同じことを調べていれば、君も同じ結論に至ったさ」

「何を知ったんだ?」

「生徒会長の過去を、色々とね。推論だが、おそらくこれで正しい」

 美瑠子は得意気な顔をしている。俺に真実を語ろうというのだろう。


「教えてくれるのはありがたいが、お前から答えを聞いても、ちゃんとヒントは貰えるのか?」

 ヒントを貰える条件は確か、俺が翠の手伝いを果たすというものだった。それを美瑠子の力を借りて果たす場合、ヒントを貰えるか疑問だった。


「大丈夫だよ。実はぼくもね、困っているんだ。真実を知ったがいいか、どう扱っていいか分からないんだよ」

 そのあと、俺は美瑠子の言葉をただ聞いていた。そして、美瑠子が辿り着いたという真実を知った。


「なるほど、それは確かに厄介だ」

 俺は溜息を漏らした。

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