第6話 聴取③「生徒会長」

 生徒会長について知っていることはほとんどない。ただ、よく見かけるなあと思っていた。

 放課後の校庭、体育館、その他文化部の部室なんかに出没している。俺はどの部活にも所属していないが、帰るときちらりと見かけることがある。


 どうやら部活を頑張っている生徒たちを、激励して回っているらしい。

 なんとも豪快で、同じ高校生とは思えない。

 だから俺は悩んでいた。そんな先輩が、幽霊に恋をするなんて突飛な事実は、とても受け入れることができない。


「生徒会室に入るのは初めてだなあ」

 翠は生徒会室の前で興奮しながら言った。一体どの辺にわくわくしているのか分からないが、翠は見たこともないものには無条件で興奮するのかもしれない。


 翠は戸を二回ノックした。腹に力が入った猛々しい「どうぞ」という声が聞こえた。中には生徒会長だけがいた。なのに部屋が狭く感じた。存在感の大きさがそう感じさせているのだと思ったとき、背中を大きく感じるという表現が現実にあるのだと知った。


「なんのようかな?」

 生徒会長は長机の上でなにやら事務仕事をしながら、こちらを見ようともせずそう聞いた。


「ちょっと聞きたいことがあって」

 翠が言うと、生徒会長は鼻で笑い「幽霊の件だろう?」と言った。その察しの良さは、美瑠子を思い出させた。そう思っただけで、俺は話す気をなくした。美瑠子みたいな万能キャラは一人相手にするだけで十分だ。


「そのことに関して、私が言えるのは一つだけだ」

 生徒会長は体をこちらに向けて、しっかりと俺と翠を見ながら力強く言い放った。

「私は幽霊を見て、恋をしたんだよ」


 俺は最初から生徒会長に苦手意識を持っていたけれど、翠はその発言にぞっとしてしまったらしく、俺たちはそそくさと生徒会室を出た。


「どうしよう、めちゃくちゃ怖くなってきた」

 足をぷるぷると震わせながら、俺の制服の袖を掴み翠は言った。


「大丈夫だ。俺はもう大体分かった」

「ほんと?!」

 翠はぱあっと顔を輝かせて言った。

「もちのろんだよ。今日はもう帰んな」

 俺は気障なポーズで気障なことを言った。翠は小銭を貰った子供のように「うん」と言って一目散に去って行った。


 俺は翠がいなくなったのを確認すると、走り出した。自分の教室に向かって全速力でだ。

 教室の戸を開けると、美瑠子が本を読んでいた。俺はそれを視認するとすぐに叫んだ。


「助けてミルえもん!」

 美瑠子は嘲るように微笑むと「なんだい、かず太くん」と言った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る