第9話 間違いの発覚と回答要求
お年玉を貯めて購入したマウンテンバイクに乗って、俺は公園に急いだ。詳しい場所は聞いていないが、学校近くの公園は一つしかないから迷うことはなかった。
その公園のことはよく覚えている。俺が砂場で角膜を傷つけてしまった場所だからだ。
嫌なことを思い出して、萎える気持ちを何とか持ち上げて俺はペダルを漕いだ。
俺はただあいつが面倒ごとを起こし、周囲の人間に何とかしろと責められるのを避けたいのだ。俺とあいつの間に勝手な信頼関係を妄想し、勝手な言い分を押し付ける奴らに、これ以上どうこう言わせないために、俺は走るのだ。
そして、夕暮れの公園に、あいつはいた。
小さな男の子をおんぶして、公園の隅にあるベンチに向かって歩いていた。
おんぶされている男の子は眠っているみたいだ。でも器用にも、右手に握っている風船は話していなかった。よく見ると、その顔には見覚えがあった。同じ団地に住んでいる佐藤さん家の子供だ。何度か母親と一緒にいるのを見かけたことがあった。
そんなことに気づいた後、あいつが右足を引きずっていることに気づいた。
苦しそうな顔をして、額には汗を滲ませている。
そしてベンチに着くと、背中の子供をゆっくりと丁寧にベンチに下ろし、自分もまたベンチに座り込んだ。
そうして、天を仰ぎ、ふうっと息を吐くと、隣で眠っている男の子を見て微笑んだ。そのあと靴を脱ぎ、引きずっていた右足の先を見つめていた。
右足の靴下は血で滲み、痛々しい様相をしていた。
俺は、あいつと男の子を観察して、胸の辺りが痛むのを感じた。なにかに握りつぶされているような、そんな痛みだった。
俺は携帯を取り出して、電話を掛けた。
「なあ、美瑠子」
『なんだい?何か困りごとかな?』
美瑠子はまるで全てを予見していたかのように、楽しそうな声でそう言った。俺がまた電話をかけることを知っていたかのようだった。
「今日の非礼は全て詫びるよ。明日お前に土下座したって構わない。だから――」
『いいよ、別に。君は君が思う通りに話しただけだろう。別に詫びる必要はないさ。君が知りたがっていることも、無償で教えるさ』
そして、美瑠子に教えて貰ったことを頼りに、俺は自転車を走らせた。
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