第7話 フラグ建築と解体

 美瑠子に不愉快なことを言われたからか、俺の心には台風が到来したのかごとく荒れていた。もしもこれが真っ当な青春ドラマだったなら、俺は校舎を飛び出しバイクでも盗み出すのだろうけれど、俺にそんな行動力などなかった。

 普通に家に帰って、普通にゲームして、普通に飯を食って、落ち着くとしよう。幸い今日は、あいつに会っていないから、台風は台風でも穏やかなもんだった。


 俺は運命というものを信じていない。そういうものを信じる病気は完治している。けれど、フラグという言葉はなぜか信じている。いや、信じているというよりは、その存在を知らしめるような目に何度か遭っているのだ。


 そして、察しの良い方なら気づくだろう。語り部が突然、こういう持論を展開すると、その持論を肯定するシーンが訪れる。

 何が言いたいのかと言うと、俺が『幸い今日は、あいつに会っていないから』なんてモノローグを用意したせいで、フラグを立ててしまったのだ。

 だから、あいつは現れた。

 晴れやかな顔で、俺の心の曇り模様も知らず、言葉を発した。


 そして、現れたあいつの言葉で、俺は昼休みにもフラグを立てていたことを知る。

「私ね、世界を救いたいの」

 先ほどの台風は、嵐の前の嵐だったのか……。こいつと関わるということは、静けささえ諦めないといけないのか……。

「そうか、じゃあ、一人でやってろ」

 昔は、こいつに振り回されるくらい、俺はチビで力がなかった。でも今は、そんなことはない。こいつが手を引っ張ったって、自分の道を進んでいける。

 俺はカバンを背負い直して、冷めた視線をあいつに向けて歩いて行った。

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