第6話 虚構ヒロインと現実少女
昼休みの貴重な時間を使い、俺はあいつのことを説明した。こういうことは今まで何度かあった。だから俺の説明には余分なところがなく、自分で言うのもなんだがかなり分かりやすいものだと思う。
そのおかげで、高木はすぐに俺の言いたいことを理解してくれたようで、顔を引くつかせながら、自分の席へと帰っていった。
罪悪感を覚えていないと言えば嘘になる。だって俺は、一つの恋心を終わらせてしまったのだから。
でも、俺はふてぶてしくも、これは正しいことだと信じることもできた。
小さい頃の恥ずかしい過去なら別に問題はないと思う。俺だって、年頃には色々と恥ずかしい思想を持っていた。それくらい誰だって経験があるだろう。
では何が問題なのか。それはあいつがその思想を持ち続け、不変だからだ。
あいつは解けない呪いに罹っているかの如く、あの頃から一ミリだって成長しちゃいない。
あいつは今でも、世界を救いたいと宣うのだ。
痛い女だ。そりゃ、俺だってそういう特徴的な存在感のある女性が好みだった時期がある。主に深夜アニメの影響で、そんな血迷った時期があった。
けれど気づいてしまった。アニメはアニメ、虚構は虚構なんだ。そんなものが現実にあったら、ただ痛くて痛々しいだけだと気づいた。
某SOS団団長も、某手の平に乗る虎も、某使い魔の主人も、某蟹に挟まれた少女も、現実にいたらはっきり言って気味が悪い。
「じゃあ嫌いなのかな?」
放課後の教室で美瑠子は俺の熱弁を聞き、単純な質問をした。俺はため息を漏らした。
「俺はちゃんと、虚構と現実の区別がついているんだ。だからアニメはアニメ、リアルはリアルでちゃんと区切っているんだ」
「じゃあ好きなんだね」
俺は少し顔を熱くして単純な質問に羞恥心を抱いた。
やっぱりなんだかんだ言っても、アニメ好きの高校生という部分を、女の子に知られるのは恥ずかしいものだ。
「恥ずかしがることはないよ。君が言ったヒロインたちはぼくが知っているくらい有名どころなんだからね。まあ、二分の一が某声優担当なのは少し引っかかるがね」
俺は口を尖らせてそっぽを向いた。美瑠子の口車に乗せられて、恥ずかしいことを言わされたことに腹を立てていたのだ。
美瑠子と会話をすると、いつも感心させられる。多分こいつには探偵の素質があるのだろう。追い詰めた犯人に自供させたくなったら、こいつを呼ぶとしよう。まあそれは、俺が怪しげな屋敷に招待されたり、孤島へキャンプに行くことがあったらの話だが。でもその場合、特徴のない俺は真っ先に殺されることだろう。
俺が語り部になれるとしたら、それは平凡な学園ドラマが限界というところだろう。
「しかし、君の言葉から考えると、ぼくみたいな一人称がおかしくて、学校でジャージを着ている奴とは関わりたくないんじゃないかな?」
「それはない。俺は別に個性を否定する気はないからな。ただ他人を巻き込んで、怪我させて生きている奴が嫌いなんだ」
某団長の勝手気ままな無理強いも、某虎の暴力も、某主人の鞭打ちも、某蟹少女のホッチキスも、アニメだから許される。虚構だから魅力的に見える。
現実として、俺の指を折り、俺の角膜を傷つけ、俺の腕を折る行為は嫌悪に値する。
「俺はお前の言い回しや行動は、割と好きなんだ」
美瑠子は鼻で笑いながら「そうか」と言った。
「君の今の言葉を、ぼくは本心だと思っているよ。君の言い分はもっともだし、概ね同意だよ。でもね、君の言葉が真実だと理解した上でぼくはこう思うんだよ。君は、彼女を――」
美瑠子の戯言を、俺は無視した。
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