第2章 オーバー・ザ・ウェイブ 〜海の上のディズニーランド〜

Day 1 セイリング・アウェイ

 2013年、8月X日。

 フロリダ州、ポート・カナベラル。

 昨日までウォルト・ディズニー・ワールドWDWに10日ほど滞在し、その直営ホテルからそのまま専用バスに揺られること1時間。

 私は、この旅のクライマックスとなる「ディズニー・クルーズ・ライン」の専用ターミナルにやってきた。

 ターミナルはやはりというか何というか、ディズニー1色。

 フロアの中心には模型の「ディズニー・マジック号」が鎮座し、その前ではミニーマウスのキャラクターグリーティングが行われていた。

 お母さんがチェックインをしている間に列に並び、直前で合流し最初のクルーズ家族写真を撮った。


 午後1時ころになり、乗船の順番がやってきた。

 ミッキーをかたどったブリッジの入り口を抜け、いよいよ「ディズニー・ドリーム号」に乗り込む。

 最初に見上げたのは、大きなシャンデリア。

 クルーズ自体は5年前ののマジック号から2回目だったが、それでもロビーの景観には息を飲むばかりだった。


(これから、始まるんだ)


 私の胸はドキドキでいっぱいになっていた。

 船内に入るといきなり女性キャストから名前を聞かれた。

 するとマイクを握って彼女が告げる。


「Please welcome aboard —— Family!!」


 ——家の皆さん、ようこそ。

 そして周囲にいたキャスト達による拍手。

 こんな演出、前はなかったはず。

 正直、やられた。

 文字通りのサプライズに思わず笑った。こういうのもディズニーの楽しみだから。




 私たちがとった部屋は、ベランダ付きのルーム。

 壁に掛けられていた絵は、4隻のクルーズ船。

 マジック、ワンダー、ドリーム、そしてファンタジー。

 早速手荷物やら着込んでいた上着を片付けていると、ドアがノックされた。


「すみませーん」


 その時ドアに1番近かったのは私で、「はい」と答えながら扉を開けた。

 目の前にいたのはハウスキーピング――確かクルーズでの名称はステートルームホステスだったはず――の女性。

 ああ、ゲストへの挨拶回りか。そういえば部屋担当の人は各部屋ごとの配置ではないけれど、クルーズ中ずっと顔を合わせるもんね。

 ついでに後から思いだした。


 ——ここ、アメリカじゃん!? なんで日本語で答えてんの私は!? というか日本語流暢過ぎない!? 思わず素が出ちゃったじゃん!?


 私に代わったのはお父さん。

 その会話を聞いてみると、日本に2、3年ほど滞在していたり、日本人をメインに担当していた経験があるとか何とか、ということだった。

 ……ですよねー。




 その後は恒例の避難訓練を終えると、最初のイベントショーである出航セレモニーのために11デッキへ向かった。

 当然だがここに居る乗客は全員デイズニー好き、エレベーターから階段に至るまで大混雑だった。

 何とか辿り付き、やや前のほうに体を入れた。

 最初はキャストのダンス(ダンサーか本物かは分からなかった)から始まり、ミッキーたちによるミニショーと続き、いよいよ出航のカウントダウン。

 鳴り響く汽笛は、"A Dream Is A Wish Your Heart Makes"——「夢はひそかに」だった。

 船の揺れを感じ、人ごみから外を見れば景色が動き出していた。




 クルーズのフルコースディナーはローテーション制で、毎回レストランが変わるシステム。ちなみにドレスコードもある。

 そのため私はパーティードレスを新しく買ってもらっていた。色はお気にいりのディズニープリンセス、アリエルに合わせたグリーン。


 初日は3デッキの「アニメーターズ・パレット」だった。

 ここは食事が進むにつれ、壁に書かれた絵に色がついていくという面白い演出のレストラン。

 そして食事を運んでくる「サーバー」と呼ばれるメインとサブの2人のキャストも、朝と夜は毎回顔を合わせるので挨拶から始まる。ちなみに彼らも1ブロック分3、4テーブルをまとめて担当している。

 メインサーバーの男性の名札には「セバスチャン」とあって、心の中で吹き出していた。

 彼から渡されたメニューは当然英語だったが、その下に小さく日本語も載せられていたので、メニューをイメージしやすかった。

 確かその日は牛肉のフィレを食べたと思う。残念ながら2日後には何を食べたのか忘れてしまっていた。

 

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