Windows98でケンサク
わたしが中学三年生の頃だったと思います。いつの間にかリビングに分厚いデスクトップパソコンが入居していました。当時、Windows98が出たばかりで、まだADSL(デジタル回線)すら開通していなかったはずです。パソコンを立ち上げるとツーツーと音を立てていたのを覚えています。アナログ回線だったので、電話と同じように使った時間分だけの料金が発生します。だから長く使いすぎるとバレます。夜中にこっそりエロ画像を見て、いつの間にか時間が経っており、月の使用料が三万円とかになって、めちゃくちゃ怒られたこともありました。
両親が寝静まったのを見計らって夜中にわたしはリビングのパソコンに釘付けになっていました。その時、わたしが最初に検索した単語は『金蹴り』とか『玉蹴り』だったと思います。ちなみに『セックス』という単語を検索したことはありませんでした。わたしはセックスという行為には全く興味を持っていなかったのだと思います。
ちなみに使っていた検索エンジンはinfoseekかgooだったと思います。
で、『金蹴り』で検索して画面上に出てきた画像は、腹のたるんだパンツ一丁のおっさんが、ブラジャーと下着姿の中年女性(中学生当時の自分にとっては大学生以上の人は全て中年女性に見えました)に股間を蹴り飛ばされている画像が出てきました。
なんのときめきも感じませんでした。
ただ、気持ち悪いだけでした。
でも、『金蹴り』という単語に興味を持っていたということは、わたしがそれをされたいと思っていたからです。
その時のわたしは、いったいどういうタイプの人にそういう行為をされたいと思っていたのか?
男性にされたかったのか?
少年にされたかったのか?
中年男性にされたかったのか?
爺さんにされたかったのか?
女性にされたかったのか?
少女にされたかったのか?
中年女性にされたかったのか?
婆さんにされたかったのか?
その時のわたしは少なくとも自分と同い年の女の子。あるいは男の子にそういうことをされたいと思っていた。
そして、女性と男性のリアルな三次元で、そういう画像は多く転がっていたのですが、興奮は感じたものの、何か妙な違和感がありました。何かが気持ち悪いのです。写真(三次元)にリアリティを持てなかった。
ですが、絵(二次元)で女性に股間を蹴られる男の子を見た時は、異様な興奮を覚えました。わたしは両親が寝静まった夜中にそれを急いでプリントアウトしました。その途中で親がリビングに降りてきた時ときは、冷や汗をかきながら、あらかじめ用意していたテキトーな文字だらけの用紙をのせて、デスクトップの画面もワードのテキストか、あるいは文字で密集している何か難し気なものを調べているページに急いで切り替えて誤魔化していました(でも、今にして思えばバレていたかもしれません。だって月額三万分の回線を使用するほどに調べるような情報なんて当時のわたしにはあまりないことを両親は知っていたはずですから)。
しかし、ところでこのフェチなエロ絵に性別はあるのか?
その絵の男の子とお姉さんの性器は露出しているわけではありません。服を着ています。お姉さんはポニーテール。ミニスカートで黒いタイツを履いています。男の子は髪の長さはショート。半ズボンで、見た目は中性的です。そして、タイトルが『お姉さんに金蹴りされる少年』でした。
もし、この文字情報を消し、この絵に描かれた少年の服を脱がせて、男性器がなかったとしたら、わたしはそれに興奮を覚えなかったはずです。
つまり、わたしは自分の想像の中で、それが男の子だと勝手に思い込んで、興奮していたわけです。
わたしはその時に性別というカテゴリーが分からなくなりました。
当時のわたしは女性に金蹴りをされる平面上の『絵』を見て興奮していた。
しかし、現在ではそんなことを女性にされたいと全く思わなくなりました。わたしは若い自分好みの(背の高い中性的な見た目の)男性にそれをされたいと思っている。
これは現在のわたしが去勢をして女性ホルモンを飲んでいるからではなく、睾丸がなくなったという認識と、乳房が出はじめた自分の姿を見て『女性』の肉体を得たという思い込みから発生した認知の歪みによるものだと思います。
ところで、わたしは金蹴りされる画像を探している最中に偶然クラインフェルター症候群というものを知りました。先天性(生まれつきの)染色体異常で、通常の男性の性染色体にXが一つ以上多くなる症候群らしいのですが、その特徴は見た目が女性的で、テストステロン(男性ホルモン)が過剰に低い状態で、男性性器はあるけれど機能していない状態です。クラインフェルター症候群なら、わたしは生まれつき女性っぽい感性を持っていても許されると思ったからです。不謹慎だと思いますがわたしはこの病気に憧れました。
わたしは自分が性染色体異常があれば、自分の肉体に対する違和感や感情の違和感を病気のせいにできると思ったのです。それから大学を卒業するまでずっとそうであることを心のどこかで望んでいました。
ああ、なんかだいぶ話が脱線してしまいました。とにかくこうして わたしはWindows98の情報によって、エロ画像を検索し、性別に対しての違和感をより強く持つようになり、クラインフェルター症候群であることを望むようになり、そしてこの後、男性機能を無くすための答えをこの小さなパソコンの情報の渦から選択するようになります。
そうそう。検索履歴だけはその都度消していました。
わたしには弟が二人いるのですが、二人とも検索履歴を消していなかったので、やっぱりわたしと性癖が違うんだなあと思いました。
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