第17話 フェロモン

「でもさあ、何で平均点が下がるわけ?」


「そりゃ、男子がメロメロになるからでしょ?美魔女の色気で」


「うそ!?ベタすぎ。ウケる」


「そんな試験の点数落とすほどの色気って。ヤバイ」


「それがフェロモンが半端じゃ無いらしいよ。笑えないくらいに」


「虫じゃん!虫か獣じゃん!」


「男子なんてね。獣よね」


 ひなたは、時折愛想笑いを浮かべながら話の輪にいた。


「我がクラスにはお色気クイーンひなたがいるのにね」


 AだかBだかが話しながら、横からひなたの胸をツツいた。


「あっ」


 不意の攻撃に声が出てしまった。ひなたは確実に感じやすくなっている。


 ひなたの声にクラス中の男子が振り向く。


「ヤバイ、ひなたがフェロモン振りまいた」


 思わず顔が赤くなる。周りを見回すと、男子はみんな目を背けたが、1人だけが目を逸らさずひなたと目があった。


 君塚蒋平。ひなたと寝ていた男の1人だ。


 あの日、ひなたの一方的な別れに対し、1人だけ返信してこなかったのは彼だ。


“あ、めんどくさいかも”


 それは、薄々感じていた。蒋平は、ただヤリたいだけの男達の中でも、唯一優しく接してくれた。


 もしかしたら付き合うかもと思った時期もあったが、不思議とそうはならなかった。


 もし、想われてたらめんどくさい。それは今のひなたの率直な感想だった。


「来た!キメラだ」


 廊下を西崎綺芽羅が歩いて行く。この教室は通り過ぎるようだ。


 ひなたも初めてキメラを見たが、確かにアメリカの女優かと、言うぐらいズバ抜けて綺麗だった。


“白衣か。ゆいに白衣でお仕置きしてもらおうかな”


 エロひなたモードは、この後に及んで最大ボリューム。


 何となくキメラを見ていると、こちらを向いたキメラと目があった。


 その瞬間、キメラは立ち止まると、方向を変えひなた達の教室に入って来た。


“何?フェイント?”


 キメラはそのまま教壇に上がる。


「さあ、テスト始めるわよ。前の席の人取りに来て」


 キメラは言うなり、椅子に腰掛け足を組む。それもわざわざクラス中に見える位置までイスを動かして。


 その時、続けて違う先生が教室に入って来た。


「さあ、テスト始める…え?西崎先生」


 それは、もちろん驚いている。


「西崎先生、隣のクラスの受け持ちじゃあ?」


「このクラスです。校長先生に確認してください」


「あ、え、いや」


「確認してください」


「いや、分かりました!僕が間違えてました!」


 恐らく無理矢理変えたのだろう。みんながそう思っているはずだったが、誰もそれをおかしいと思わなかった。


 すでに、教室にはフェロモンが充満していた。

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