第16話 伝説

 学校まではアッと言う間だった。昨日と同じく校門で別れ、ゆいが友達とはしゃぎながら教室へ向かうのを悶々として見送る。


 昨日感じたよりも落ち着いて見て要られたのは、ゆいの言葉のおかげだけど、心の底にある疑念を拭いきれないのも、それはそれでゆいの言葉のせいだった。


 ゆいは何かを隠している。もう少しひなたの感じているままを言い表すとすれば、ゆいは何かを“守っている”みたいだった。


 それは、いわゆる女の勘って言う奴で確信があるものではない。


 だからひなたにしてみれば、ゆいを疑っていると言うより、そんな不確かな感情に揺さぶられている自分に悶々としているのだ。


“恋だね。好きすぎだね”


 ポジションを前向きに入れれば、そんな風に笑い飛ばせる感情だった。


「ねえ!聞いて聞いて!」


 ひなたは、教室のいつもの席に座って、クラスメイトの話を聞くとも無しに聞いていた。


 特別仲が良い訳ではないが、こういうグループという奴はひなたのような美人を輪の中に入れたがる。だから、休み時間などは自然にひなたの周りに人が勝手に集まってくる。


「あの話、本当らしいよ?」


「あの話って」


 詳しい紹介は割愛する。今のは友人Aが友人Bと話している会話。しばらくC、Dを交えて会話をする。


「西崎綺芽羅(ニシザキキメラ)伝説」


「うそ!?キメラ先生今日いるの?」


「だれ?キメラ先生って?」


「保健室の先生。あまり学校来ないけど」


「あ、見た事ある!年齢不詳の!超絶キレイだった!」


「そう、あの典型的美魔女のキメラ先生。今日来るって、しかも試験官やるって」


「ホントに!?シナリオ通りじゃん!」


「そうなの、いつもいる保健室の先生がたまたま忌引き休みで、なぜか3年の先生がたまたま風邪で休みで」


「それで、たまたま学校に来てたキメラ先生が試験官やるって言う奴ね」


「本当だぁ。聞いたことあるー」


 ひなたも、その話は聞いた事があった。何年かに一度、出来すぎた偶然で西崎綺芽羅先生が試験官をやるとそのクラスの平均点が下がるという話。


 どこまでが噂か分からないけれど、キメラは単なる養護教諭であるにもかかわらず、何校か掛け持ちで受け持っており、それらの学校を牛耳っているとか。


 校長や学年主任のような先生を男女の別なく骨抜きにするとか。


 試験官を受け持つと、そのクラスの平均点が軒並み下がるとか。それが学校側の進学に絡む点数操作なんだとか。


 補足程度に付け加えれば、第2保健室もキメラが建てさせたとか。


 聞くとも無しに聞いていたひなたは、第2保健室の事を考えた時、ゆいの温もりを思い出した。


“集中出来ないなぁ。0点かも”


 お仕置きでも、ご褒美でも。ゆいから貰えるものなら何でも欲しいと考えていた。


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