第11話 ゲーム


「おこってる?」


「おこってない」


「うそ。おこってるじゃん」


「おこってない!」


「もう」


 結局、ひなたは1日悶々として過ごした。それでも試験は無難にこなし、今はゆいと一緒に帰っている。


 つい先程、待ち合わせをしていた校門へゆいは友達とやってきた。今朝じゃれていたのとは違う友達。


「ほんとだ、澤村さんだ。いいなぁ、私も一緒に帰りたい」

「だめ、2人で帰るって約束してるんだから」

「いいなあ。私も仲良くなりたいー」

「だから、ダメ。澤村さんは私と帰るの」


 はたから見たら、女子高生の普通のやり取りだけど、ひなたには、違く映った。どういう関係なのか疑ってしまう。


 だから、今も怒っている訳じゃない。ただ悶々としているだけなのだ。


「わたし、女の子なら誰でもいい訳じゃないよ。カミングアウトもしてないから、私のタイプは誰も知らない」


「そうなの!?」


 ひなたが食いつき気味で応えたので、ゆいはホッと顔を緩めた。


「誰も知らないは嘘か。今まで関係を持ったのは3人」

「3人…」

「同学年にはいないよ。今日会ったのは本当にただの友達」

「そうなんだ」


 それを聞いて安心した。でも、心から安心出来たわけでもない。多少不安は残る。ゆいのあのモテっぷりは気になる。


「ねえ、ところでさあ」

「ん?」


 ゆいが話を変えた。


「今日、この後どうする?」


 それは、ゆいも気になっていた。てっきり今日も第2保健室へ行くのかと思っていたのだけど、とても言い出せる雰囲気じゃなかったから。


「ウチ来る?」

「え?」

「共働きだから誰も居ないの。ウチ行こ」


 心が急に踊り出した。ゆいの部屋へ行けるなんて、考えただけで飛び上がりそうだった。


 昨日は離ればなれになったホームで、今日は同じ電車に乗る。少し混んでる電車の中で並んでつり革につかまった。


 朝会ってから、ずっとお預けをされていたみたいで、ひなたはムズムズしている。そんなひなたに、ゆいは、ある提案をした。


「ねえ、ゲームしよう」

「ゲーム?」

「当ててみて」


 そういうと、ゆいはひなたの背中を指先でなぞった。

 思わず仰け反りそうになる。


「何て書いたかわかる?」

「わからなかったもう一回」


 ゆいはもう一度、今度はゆっくり背中をなぞる。


「ひなた」

「正解!じゃあこれは」


 ひなたは文字に集中出来ない。それでもちゃんと伝わる。


「だいすき」


 恥ずかしいから小声で答えた。


「正解。だいすき」


 ゆいも耳元で、囁いた。囁きながら、今度はひなたのお尻にハートを書いた。


 もう、我慢の限界だった。



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