第10話 ともだち
待ち合わせは8時だったが、ひなたは15分早く駅に着いた。
そこでゆいを待つつもりだったが、そこには既にゆいは居て、遅れたのはひなたの方だった。
「ズルイ。早い」
「ひなただって」
そう言うと2人して笑った。ゆいは昨日と変わらず明るい笑顔で、ひなたは、ゆいに会えた事で自然に笑顔になってしまう。
「会いたかった」
そんなの、言葉で伝えるより、直ぐにでも抱きついてキスして思う存分、伝えたい。
学校までの道のりは、他の生徒もたくさん歩いていて、手すら繋ぐ事も出来なかった。
昨日までは、何の絡みもなかった女の子が急に付き合い出してイチャイチャしだしても周りが騒ぐだけだし、何よりそっとしておいてほしい。
そんな気持ちもあるけれど、ゆいに触れられないのは、正直苦痛だった。
誰に聞かれているか解らないので、ひなたはゆいにこっそりメールを送った。
「キスしたい」
「わたしも」
直ぐに返信が来たのが嬉しくて、ひなたは潤んだ瞳でゆいを見た。
「かわいい」
ゆいはポツリと呟いた。ひなたの顔が赤くなる。
「ほら、また可愛い」
「ズルイ。我慢できなくなる」
「わたしも」
ひなたは、どうしても我慢できなくなって、ゆいの肩にそっと触れた。
「ズルイ」
今度はゆいが赤くなる。
あっという間に学校に着き、またしばらくお別れになった。
「一緒に帰ろうね」
「もちろん」
2人は自然に手を合わせて、そこで別れた。
「ゆいー!おはよー!」
知らない女子が、ゆいに駆け寄ってくる。おそらくクラスメイトだろう。
「何?澤村さん?一緒に来たの?」
「うん。仲良くなったの」
「綺麗だよねー澤村さん。いいなぁ」
「いいでしょう」
そんな会話が聞こえてくる。
ゆいは、人気者だ。同性からも好かれるタイプだと前から思っていた。友達もいっぱいいる。
“ともだち。だよね”
ひなたは、急に不安になった。ゆいの友達は、どこまで友達なのか。
昨日の夜、自分の事は聞かれたけれど、ひなたはゆいの事は聞いていない。
「おはよー!ゆい!」
今度は、違う女子がやってきて、ゆいに抱きついた。
ひなたの胸がザワつく。あれも友達なんだろうか?ゆいは笑顔でじゃれ合っている。
ひなたは、嫉妬している。今すぐこの場からゆいを連れ去りたい。
誰もいないところで、ゆいを独り占めにしたい。
“うわっ、わたしおもっ”
はっと思って反省したが、それでも正直、誰にもゆいに触れてほしくなかった。
あの中の誰かがゆいと寝ていたとしたら。
そう思うと、気がおかしくなりそうだった。
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