第8話 涙

 散々、2人で求め合っていたら、いつの間か辺りは暗くなっていた。


 ひなたのぎこちない愛撫も、ゆいは充分に満足しているようだった。


 名残惜しくは合ったけど、2人は服を着だした。


 1枚着ては、キスをすると言った具合にちっとも着替えは進まなかったが、ようやく身なりを整えて2人は保健室を後にした。


 誰もいない校庭を、2人は手を繋いで歩いた。ひなたにとってその手の温もりは、今まで探し求めていたもの。


「ねえ」

「ん?」

「好き」

「うん」


 さっきまで、たっぷり抱き合ったのも気持ち良かったが、たったこれだけの言葉のやり取りでも、ひなたは満たされていた。


「もっと早く、ひなたに告白してれば良かった」

「私も、早く気付けば良かった」

「ひなたは女の子好きじゃなかったんでしょ?」

「分からない。でも、ゆいの事ずっと待ってたんだと思う」


 ひなたは、今日校門で会ってから保健室まで感じていた事をゆいに話した。


「あの時、わたし、ゆいを襲おうと思ってたんだよ」

「あははは、うそ!?」

「嘘じゃないよ。襲おうと思ってたら、襲われちゃったけど」

「ひどーい!何それ、襲ってないよ?合意だよ」

「ビックリしたんだよ。心が読まれてるのかと思った」

「へへ。我慢出来なかった」

「ほら!襲ってるじゃん!」

「襲われる方も悪い!ひなた無防備過ぎて可愛い過ぎたんだよ!」

「もう。そういう事言う」


 駅まで一緒に歩いたけれど、そこから先は逆方向なので、ここでお別れだった。


 ホームで座って電車を待つ。最初にひなたの電車が来たが、ひなたはそれに乗らず、ゆいの電車を待った。


 続いてゆいの電車が来たけど、ゆいも結局それには乗らなかった。こうして何本か電車をやり過ごしたが、最後はひなたが電車に乗った。


「また明日」

「うん、また明日」


 扉が閉まり、電車がホームを離れていく。ゆいの姿がだんだん遠くなり見えなくてなった。


 ゆいの姿が見えなくなった事を確認し、ひなたは空いている席に座る。


 その時、ひなたは自分の視界が滲んでいる事に気がついた。


“うそ!?”


 泣いている。そう思ったら涙が止まらなくなった。


 たった今、別れたばっかりなのにもう会いたい。ゆいに会いたくて泣いている。


 ひなたは、スマホを取り出すと、ゆいにメールを送った。


“会いたい。離れたくない”


 それだけ打つとすぐに送った。返事は直ぐに返ってきた。


“ひなたと離れたくない。涙が止まらない”


 その文を見て、ひなたは嗚咽を漏らした。ゆいも泣いている。その事がひなたの心を満たしていった。



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