第5話 キス

 部屋の中に招き入れられて、ひなたはベッドの上に座らされた。


 ずっとくっつきっぱなしだったゆいだが、するりとひなたの手をほどき、ベッドを隠すカーテンの裏に消えてしまった。


 ゆいが洗面台で蛇口をひねる音が聞こえる。ひなたのは、ゆいのいる方を、見ているが姿は見えない。


“どうしよう”


 改めてそう思う。そもそも自分が本当に女の子が好きなのか、女の子を好きなタイプの人間なのかを、ふと疑問に思う。


 自分の恋愛対象は、男と信じて疑っていなかったし。男に抱かれて嫌でもなかった。基本はやっぱり男の人が好きなのだと思う。


 それでも、今は確信して思っている。女の子が好きというか、間違いなく言えるのはゆいの事が好きなだと思う。


 今まで気にはなっていたけど、触れられて間違いなく思った。一瞬で恋に落ちたと感じた。こんな気持ちは初めてだった。


 しかし、そう思えば思うほど落ち込んでしまう。


「ゴメン、ちょっと見せて」


 考え事をしていたせいで、ゆいが目の前に現れた事に気がつかなかった。


 思わず、ひなたは顔を伏せる。


“どうしよう、ドキドキする”


 さんざん、男に抱かれたひなたが、顔を赤らめ俯いている。


 ゆいが、ひなたの二の腕を優しく触れると、ひなたは思わず声をあげそうになる。濡れたタオルで傷口を拭いてくれると、愛おしくて泣きそうになる。


 二の腕から伝わる温もりに、胸が熱く高鳴り、はり裂けそうになる。


“もっと。もっと、いろいろ触ってほしい”


 ひなたは、そんな思いをひたすら胸の奥に押し込める。


 男だったら簡単だった。ゆいが男だったら、ひなたは幾らでも自分の身体に誘導する事が出来る。


 いっそ自分から抱きついてしまっても、問題は無いかもしれない。


 ただ、どんなに美人でも、どんなに品行方正でも。どんなに胸が大きくても、女の子に抱きつくわけにはいかなかった。


 そうするには、せめてもう少し仲良くならなければならない。


 ただ、それはそれで、こんな気持ちを抱えたまま、衝動を抑えたまま、ただ側にいるだけなんて考えるだけで気が遠くなりそうだった。


 傷の手当てはあっという間に終わった。もう、ゆいがひなたに触れる理由は何もない。ゆいは手当て箱を脇に避けると、ひなたの横に座った。


“地震でも起きれば、堂々と抱きつくのに”


 そんな事を思いながら、ゆいの方に目を向ける。


 ゆいもひなたを見ていたらしく目が合った。


“もうダメだ。抱きつきたい”


 いっそ襲ってしまおうかと考えたその時、ゆいの手がひなたの首筋に伸びた。


「えっ」


 ビックリするのと同時に身体が悦ぶ。全身の力が抜けて行く。


 吸い込まれるように、ひなたはゆいにもたれかかった。


 そんなひなたの身体を支えて、ゆいは、ひなたにキスをした。


 先に手を出したのはゆいの方だった。

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