第4話 第2保健室
いつまでもこうしていたいが、ひなたはどうしていいかわからない。いつまでもしがみついていては、変に思われてしまう。
それでなくても、男が去ってだいぶ経っても腕にしがみつくひなたを、ゆいはそっと抱えてくれていた。
正直、ひなたにしてみればもっと触れて欲しいという感情まで抱いていたが、それをどう伝えたら良いのか男性経験しかないひなたには考えもつかないでいた。
しかも、時間が経つにつれて不安になっていく。変に思われたらどうしよう。嫌われたらどうしよう。
“女の子が女の子を誘うってどうすればいいの?”
冷静に考えれば、ここは一旦退くべきところだ。そもそも自分の気持ちにもさっき気づいたばかりなのだ。
今慌てて行動するよりも1度状況をしっかり整理するべきだ。
もともと頭の良いひなたは、これぐらいの事はすぐに計算できたのだが、身体がそれを許してくれなかった。
ゆいの柔らかい肌を手離す事が出来ない。もう少し、もう少しとしがみついてしまう。
「澤村さん?大丈夫?」
「う!うん!」
“やばい!怪しまれてる!”
もはやここまでと、ひなたは手の力を少し緩める。
「澤村さん。保健室行こう?怪我してるし」
「えっ?」
痛みなんてなかった。しかしよく見てて見ると確かにヒジのところが擦りむいて血が出ている。
「ごめん。ありがとう。でも、大した傷じゃ無い…」
「いいから!保健室行こう!」
目の前で満面の笑顔を見せるゆいに、ひなたは目を細める。
“ダメ、無理。好き…”
もはや、気持ちを整理とかはどうでも良かった。それよりももう少し一緒にいられるのであれば黙って従うのみだった。
2人はゆっくり立ち上がると、保健室に向けて歩き出す。ゆいが肩を支えてくれたので、ひなたは足を痛めたフリをしてゆいにもたれかかった。
この学校は、珍しく保健室が2箇所ある。校舎内に第1保健室があり、校庭の少し離れた場所に第2保健室と呼ばれる部屋があるのだ。
どういう経緯でそうなったかは分からないが、保健室の先生に権威があり、学校が従ったという説が有力だ。
ゆいは、ひなたをその第2保健室へつれて行った。ひなたは第2へは入った事がない。普段は鍵がかかっていて入れないのだ。
「先生いるの?」
「いないよ。今日は午前中に帰ったから第1にもいない」
それでは、入れないじゃないかとひなたは思ったが、ゆいは鞄から鍵を取り出しドアを開けた。
「鍵?何で持ってるの?」
ひなたの疑問にゆいは微笑む。ひなたの口許がそれにつられて弛む。
「私、いろいろ任されてて。結構自由なの」
さすが陽の優等生。ひなたの知らない特権が行使されている。
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