第2話 ゆい

 しばらくボーっとしていたが、こうしていても意味が無いのでひなたは身なりを整え倉庫を出た。


 今、学校は試験期間中で午前中でほとんどの生徒は帰ってしまう。部活も無いので閑散としている。


 倉庫から校庭を横切り、ひなたは校門へ向かった。


“だれかいないかなぁ”


 そう呟きながら、ひなたはスマホを覗いた。


 この場合の誰かとは、自分を抱いてくれる誰かのこと。もし、連絡がついたら誘ってみようと思っている。


 さっき他の男としたばかりで、少々だらしなさすぎるが、別に普段からこんなに欲張っているわけではない。


 今日はいつもよりテンションが高いというか、バイオリズムに変化があるというか。要するに何だかムラムラしているのだ。


 そうは言っても、誰に連絡するか迷っている。そもそも先程の男が今日の“気分”だったわけで、それで満足する予定だったのだ。


“帰ろかな”


 連絡先を見ている間に、何となく気分が萎えてきた。多分さっきと同じ気持ちになってしまうだけだ。結局満たされない気持ちを抱えてしまうだけなのだ。


 スマホを鞄にしまい、校門に差しかかろうとした頃、校舎の方に人影が見えた。


“惣田さん?かな?”


 そこにいたのは惣田ゆい。ひなたとは違うクラスだが目立つ存在でひなたも名前は知っている。


 おそらく、ゆいの方も自分の事は知っているだろうが、互いに今まで絡みはない。


 ひなたもそうだが、ゆいもいわゆる優等生だ。ただ、ひなたのそれと違い、明朗快活。天真爛漫。つまり、ひなたが陰(いん)の優等生だとしたら、ゆいは陽(よう)の優等生といえた。


 ショートカットで小柄。笑顔が可愛くスポーツも万能だと言う。しかも、ひなたと同じく胸が大きい。


 ひなたは、ゆいとは気が合うように感じていたが、何となく交友関係が違うせいで3年間とくに絡まず過ごし、それで特に不都合はなかった。


 ただ、今日は何だか気になった。閑散とした校舎で2人しかいない。何となく話しかけるタイミングなんじゃ無いかと思えた。そんな運命なんじゃないかと。


 そうやって、校舎の方に顔を向けて歩いていたせいなのだろう。


 ひなたの肩口に、突然衝撃が走った。

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