暴露カフェでそういうことはもっと早く言って!

ちびまるフォイ

このあとみんな仲良くなった。

カフェに入ると店内は思っていた以上に静かだった。


個室に案内されると壁には無数の穴がある。

きっと防音用のものだろう。音楽室の壁みたいな。


「あの、今日は来てくれてありがとう」

「いや……」


「暴露カフェに来てくれたってことは、意味はわかるよね」

「まぁ、なんとなく」


「私はあなたと自分のこっ恥ずかしいことを話して、

 お互いにより親密になりたいと思ってるの。

 だから、この暴露カフェへ誘ったの」


「なんだか、緊張するな」

「私も」


男女はお互い向かい合ったまま、

付き合いたてのカップルのようにぎこちない時間が流れる。


女は膝の上に乗せた手をもじもじさせながら、

いつ自分の秘密を暴露すべきかタイミングをうかがいつつも

それを話して嫌われるんじゃないかとぐるぐる考えていた。


「……じゃあ、俺から」


「えっ!?」


「いや、こういうのは男の俺から話した方が」


「いやいやいや! 誘ったのは私だし!」


「後に話す方がやりやすいだろ」

「ま、まぁ……」


「じゃあいくぞ」


「ま、待って!! こころの準備をさせて!!」


女は深呼吸とラマーズ法で息を整える。

どんな暴露が飛び出しても聖母のように受け止める覚悟を決めた。


「うん。OK」


「じゃあいくぞ」


男も緊張しつつ、息を思い切り吸い込んだ。



「実は……服をずっとお母さんに買ってもらっている!!!」




「……それだけ?」


「引いた?」


「いや、思っていた以上には……。

 もっと実は浮気しているとか、すでに子供がいるとか

 誰かを殺していたとか、実はオネェだったとか想定してたから」


「あぁ~~よかったーー。

 マザコンとか思われて引かれるかと思ったよーー」


「マザコンなの?」


「うーん、服のセンスが絶望的すぎて

 服だけ両親の仕送りしてもらっているって感じ」


「あ、それくらいなら全然」


悪い方のハードルを上げ過ぎていたので、

これくらいの暴露ではお互いの信頼に傷一つ入らない。


それどころか、お互いの秘密を共有できたことが信頼への橋渡しとなった。


「で、君の暴露は?」

「うっ……」


女は自分のターンが回ったとたんに冷汗が出た。

暴露の重みがまるでつり合い取れていないので、

同じレベルの暴露じゃないと受け止めてもらえないのではと心配になった。


「ん?」


男は澄んだ目でこちらをじっと見ている。


小さな暴露をしてお茶を濁すのがいいのか。

いや、それは彼への信頼を裏切ったことになる。


ここは暴露カフェ。


自分の中に隠している一番の秘密を暴露してこそ、

深い信頼関係を築けるというカフェなのだから――。


「じ、実は……」


「実は?」


「その……」


「うん」




「私、めっちゃ毛深いの!!」




「お、おう」


「引いたでしょ? 引いたよね!?」


「いや、ふーんって感じ」


「うそ! 私のことを気遣って優しい言葉をかけてるでしょ!

 私、すね毛にヒゲはもちろん、背中から毛が生えるくらいなの!

 永久脱毛した翌日にたくましく生えてくるくらい毛深いのよ!!」


「それはすごいね」


「こんな女、ぜったい無理に決まってる!!

 結婚情報誌ピクシィのWEBサイトで、

 嫌われる女のタイプ第1位になってたもの!!」


「だから引いてないって」

「うそ、引いてる!」

「引いてない!」

「引いてる!」

「じゃあ引くわ」

「うそ! 引いてない!」

「いいや引いたね」

「引いてない!」

「引いてる」

「引いてない!」

「引いてる」

「引いてない!」


「ああ、その通りだ。俺は引いてない」


「あれ?」


「毛深いからといって、君の価値が下がるわけじゃないだろう。

 人の悪口を言ったり、上から目線だったり、プライド高かったり。

 そういうタイプの方がずっと好感度下がるよ」


「本当……?」


「ここは暴露カフェ。ウソをつくなんてできないよ」


お互いのコンプレックスを話したことで、ぐっと距離が縮まった。

本当にここへ来てよかったとお互い感じていた。


「それじゃ出ようか」

「うん」


レジに行くと店員が何か申し訳なさそうにしている。


「あの、お会計いいですか?」


「お客様……その、言いにくいんですが……その……」


「なんですか?」


「怒らずに聞いてくれますか?」

「はい」


「聞いても取り乱しませんか?」

「ええ」


「本当に?」


「しつこいな! いったいなんなんだよ!?」


「実はぼったくりだったとか? それくらいなら別にいいわ」


「いえそうではなくて……」


「ここは暴露カフェだろ! どんなことでも受け止めるよ」

「ええ、私たちは秘密を共有した仲だもの!」


店員は申し訳なさそうに暴露した。




「暴露カフェは隣のカフェになります。

 ここは、聞き耳カフェといって、

 すべてのお客様が他のお客様の話を聞くという場所なんです

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

暴露カフェでそういうことはもっと早く言って! ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ