第2話 回想
最初に入院したのはいつだっただろう。物心ついた時には入退院を繰り返していた。
家はシングルマザーってやつで、世の中の家族には父親がいるという認識を得るまで、時間を要した。それくらい、男の影が全く感じられない母親だった。
母親は、いつも仕事をしていた。薬剤師なので働き先は選ばなければ見付かるようで、すすんで掛け持ちしていたようだった。
おかげで何不自由なく過ごせたと思う。
ただ、いつも一人で留守番していたから、やっぱり寂しかった。家で死んだように眠る母親に、甘えることができなかった。
時々体調を崩すと、母親が付きっきりで看病してくれたから、具合が悪くても嬉しかったっけ。
仕事が忙しくて、病院へのお見舞いはほとんどなかった。
入院は嫌いだった。
病名がつかないから本当に具合が悪いのか疑われることもあったし、すごくめんどくさそうに対応されることもあった。
かといって学校も嫌いだった。休みがちになると友達グループには入れないし、体育も先生からいい顔をされなくて見学することが多かった。
気が付けば『仮病』と呼ばれ、感染症扱いされていた。
どこにも居場所がなかった。
人に迷惑をかけないように、静かにいい子でいることばかり考えていて、何かを楽しんだ記憶がない。
初めて嘉川さんに会ったのは先月。フラっと病室に現れた彼女を見たとき、強烈な既視感に襲われた。女の子の知り合いなんて一人もいないのに。
なんとなく居心地がよかった。
特別おもしろいわけではない会話、だけど気を遣わなくて良い距離感。
嘉川さんは朝起こしに来ることがほとんどだから、毎日朝目覚めるのが楽しみになった。
ツイン 霧乃文 @kirinoaya
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