ツイン
霧乃文
第1話 いつもの朝
『おはよう』
いつもの病院、いつもの病室、いつものベッドで寝ていた俺の耳に、朝のあいさつが届くか届かないかという所で、シャーーとカーテンが勢いよく開けられる音が響く。
うーん、まぶしい…今日は晴れか。
「おはようございます!」
「うお!…嘉川(よしかわ)さん、朝から病人の耳元で大声出さないで下さいよ。びっくりして不整脈でも出たらどうしてくれるんですか。」
「控えめにあいさつして起きなかったのは静(しずか)君じゃないの。いざって時はね、私が心臓マッサージを全力でやってあげるから問題ないわよ!覚悟なさい!ふふふ…」
こんなふざけた看護師がいるだろうか。いるのである。しかし、俺は嫌いじゃなかった。いや、はっきり言って好ましく思っていた。
保育園や小学校に行く日数よりも病院にいる日数の方が多いのではないかというくらい、俺は小さな頃から病院漬けだった。
原因?そんなものは一度だって分からなかった。
それこそ、たくさん血を抜かれたし、レントゲンやCTなんてうんざりを通り越して、いかに早く終わらせるか、時間をはかってつとめて楽しんでいた。楽しむようにしていた。
他に何も、なかったから。
俺は個室だったけど、談話室に行けば他の子供と会うこともできた。
でも、俺は談話室が嫌いだった。なぜか?談話室に行けば絶対に、誰かの『家族』が来ているからだ。
個室で、まるで引きこもりのように過ごす俺に、何の下心もなく同じ目線で話しかけてくれるのは嘉川さんだけだった。
それに、なんでも学校を出たばかりとかで、すごく若く見える。勝手に親近感を覚えて、いつしかリラックスして話せる人ランキング第一位だ。そうそう、美人ではないが色白で、クリクリとした目は愛嬌がある。
「はい、じゃあ今日も一日頑張りましょう!」
どうやら俺を起こし、空気の入れ換えをしたら目的は終わりだったらしい。
「はーい。」
ヒラヒラと手を振り、ヘラヘラ笑いながら嘉川さんは出ていった。
さぁ、今日は何をしようか。
まあ特にやることなんてないんだけど。
ここまでが大体いつものワンセットだ。
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