第2話 僥倖

 シャワーを浴びて一日の汚れを汗とともに洗い落とし、髪と身体を拭いて着替えてリビングへと戻った。

 テレビをつける。やっているのは深夜のバラエティ番組だ。


 最近、家に帰ってきても寝るだけだったから、今日くらい一杯ひっかけてもいいかもしれない。

 俺は冷蔵庫のもとまで行って、中からストロ〇グゼロストロングを取り出した。

 ……どうせ飲むんだし、なにかつまみはないかな? と思い、冷蔵庫の中を漁っていく。


 冷蔵室にはつまみになりそうなものはなかったが、冷凍室にパスタがあったので、それを食べることにした。終電まで仕事に追われていて、なにも食べてないから腹が減っているし。

 適当な皿を用意し、冷凍パスタを電子レンジにぶちこむ。


 先ほど取り出したストロ〇グゼロストロングの六缶パックをリビングまで持っていき、いつもの場所に腰を下ろす。


 パスタができ上がるまであと五分。それまでなにもせず待っているのも時間が無駄な気がして、一缶くらい飲んでしまおうと思った。

 六缶パックをまとめているパッケージを破って、バラバラにする。一本だけ机に残して、残りの五本は冷蔵庫に戻した。ぬるくなるとやだし。


 ストロ〇グゼロストロングのパッケージはやっぱりストロ〇グゼロに似ている。これは本当に大丈夫なのだろうか? 確かに、人気商品にパッケージを似せたPB商品も多いけれど――これは駄目な気がする。だってストロ〇グゼロストロングだし。


 だが、飲んでしまえばそんなもの関係ない。パッケージがどうとか商標がどうかなど、飲むときには関係ないのだ。俺はプルタブをあけてキンキンに冷えたストロ〇グゼロストロングの缶を手に持って、一気に喉に流し込んだ。


 ……うまい。

 なんだこれ。めちゃくちゃうまいぞ。本物のストロ〇グゼロとは比べものならないくらいの美味さである。

 変にアルコール臭くなく、すっきりしていて、だが、ジュースみたいに甘すぎない。世の中にこんなうまい酒があったのかと思ったくらいだ。


 俺は缶を傾けてどんどんとストロ〇グゼロストロングを流し込んでいく。すきっ腹なのにもかかわらず、あほな大学生みたいなペースでストロ〇グゼロストロングを飲んでいった。

 気がつくと、ロング缶を飲み干していた。


 まだ飲める。いや、もっと飲みたい。そう思って、俺は冷蔵庫に言って次のストロ〇グゼロストロングを取りに行く。

 取りに行く途中、レンジにかけていた冷凍パスタ出来上がったので、それを適当に皿に入れ、それから冷蔵庫からストロ〇グゼロストロングを二本取り出して、パスタも持ってリビングへと戻った。


 すきっ腹に酒を飲んだせいか、もうすでに酔いが回ってきた。

 だけど、その酔いは不愉快ではない。ブラック企業に就職してから味わったことがないほど気分が高揚していた。

 なにこれ、すげえ!

 酔ったせいか、食欲も増大していた。気がつくとストロ〇グゼロストロングをもう一缶飲み干し、パスタは綺麗に平らげていた。


 すごく酔っているのに、全然気持ち悪くならない。俺は、そんなに酒が強くなかったはずなのに。

 俺は三缶目を開けて、一気に喉に流し込む。

 世の中に、こんなうまいものがあったなんて……こんなものがあるのに、それを知らないで、ブラック企業の社畜をやっていたなんて――あまりにも馬鹿すぎる。

 気づいたら三缶目もなくなっていた。

 まだ飲み足りない俺は冷蔵庫に残っているストロ〇グゼロストロングを取りに行った。


 こんなに飲んだら次の日やばいだろう――そう思ったが止められない。

 いや、止めたくなかった。

 いままでずっとブラック企業で酷使されてきたのだ。今日くらいいいじゃないか。


 冷蔵庫に残っていた三本をすべて持ってくる。

 ふらふらと覚束ない足取りでリビングまで戻り、四本目を開けて――

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