8 映るもの、映らないもの

「監視カメラに映ってるけど、直接は見えない霊。監視カメラに映らないけど、直接は見える霊。どっちが怖いと思う?」


 コンビニ夜勤の彼は酔って赤くなった顔でそう言った。


 彼の働くコンビニに語り継がれる話に『監視カメラに映る女性の霊』という話があった。

 そのタイトルままに、夜勤従業員が休憩中などに事務所で座っていると、監視カメラの映像を映すディスプレイにレジ前に立つ女性の姿が見える。客の来店を告げる電子音なども聞こえないので(おやっ、いつ来たのかな?)なんて思って慌ててレジに向かうと誰もいない。そんな事が、年に数度起きるのだと言う。

 彼はその話を先輩から聞いた時、恐怖心などは抱かず、むしろワクワクしたと言う。


「だって、幽霊なんて見た事なかったからよ。実際この目で見てみたいじゃんか」


 そして数ヶ月後、ついに彼はその『監視カメラに映る女性の霊』をディスプレイ越しに見ることが出来た。


「最初一瞬背中がゾワッとして、何かを感じたんだよ。そんで画面見たらレジのとこに人が見えたから(あっ、客だ)と思ってレジ行って。したら誰もいない訳よ。そんで(うわぁ、これかぁ!)って。感動モンよ。後で録画してあった映像確認してみると、その幽霊の姿、録画はされてないんだわ。リアルタイムじゃなきゃ映んないの」


 やはり恐怖心は無く、むしろ彼は興奮した。他の従業員仲間に話し「いやぁ〜いいモン見た!」なんて笑っていたのだと言う。


 それからさらに、数ヶ月後の事。


 レジ奥のシンクで、彼は一人コーヒーマシンの部品を洗っていた。そんな時、彼は背筋がゾッ、と震えるのを感じた。


 (おっ、これは……)女性霊を視た時と同じ悪寒を感じ、彼は手を止める。その場から首を伸ばして事務所の監視ディスプレイを見た。


 だが、レジ前に女性霊の姿は無い。店内あらゆる場所を映した画面上に視線を巡らす。人の姿は、シンクに向かう自分の後ろ姿しか確認出来なかった。


 ――何かがおかしい。悪寒は引く様子がなかった。鳥肌がゾワリ、ゾワリと全身に広がりつつある。


 横にした顔を更に少し動かし、後ろを見た。


 自分の真後ろに、身長の高い男が音も無く立っている。何かの影になっているわけでもないのに、何故かその男の立っているところだけ妙に暗い。


 男は俯き、何かをぶつぶつ呟いている。動きは見せなかったが、彼を失神させるには十分だった。


 彼はパンを配達しに来た業者の人間に発見され、目を覚まされた。起きると男の姿は無く、やはり録画してあった監視カメラの映像にも何も映っていなかった。


「つまりな」


 彼は言った。「後者。『監視カメラには映らない、直接では視えてしまう・・・・・・霊』。こっちのが断然怖いね」


 そう言いつつ、彼はそのコンビニで夜勤の仕事を続けている。

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