6 覗くもの



 真夏の酷暑も緩む夕暮れ時。街には静かな風が吹いていた。


 自転車を走らせる私の目に、一台の黒い車が目に入る。

 幼い頃からそこにあったが、中で何をしているのかは知らない、小さな工場こうば。その敷地内にある駐車場に、その車は停めてあった。


 後部座席に、子どもがいた。五才くらいの髪の短い少年が一人中に居て、その身のほとんどを隠し、顔半分だけ出してこちらを覗き見ている。

 ほとんどが影になってはっきりは見えなかった。だが、艶のある両の眼が小さく光っていた。目が合った、ように思えた。


 すぐに通り過ぎてしまったが、こんな夏の日に子ども一人で車の中に。危ないと思った。親が子を車の中に置いたままパチンコに興じ、その間に子どもが熱中症で亡くなってしまったなんてニュースはよく見た。


 気になって振り返った私の目に入ったのは、大破した車の左側面だった。


 真横から相当な勢いで車に衝突された――そんな傷跡だった。


 そんな車の中に子どもが居るはずなど無いということは、考えずともわかった。


 それから何度もその道を通るが、気付くといつも違う車が停まっている。程度の違いはあるが、どれも事故車両だった。


 夏の夕暮れの風を浴びると、あの何かを訴えかけてくるような、小さな両の眼を思い出す。

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