OP02「依頼人と非現実の歌姫」

Side by 愛子


喫茶「あーでるはいど」に一人の女性が来店してきた。

奥の席に座っていた人物はその女性へと手を振る。彼は、一目見るだけでは女性と間違えてしまいそうなほど線の細い男性だった。


「こっちですよ。物部さん。」

「あぁ、これはどうも」


物部と呼ばれた女性は対面へと座る。

彼女の名前は物部愛子もののべあいこ

表向きは二流のルポライターだが、裏では情報工作や隠蔽を行うUGNの工作員エージェントだ。


愛子「お久しぶりですね、茅野かやの支部長」

茅野「ええ、本当に。」

茅野「今日はすみません。ボクの都合で呼び出してしまって。帰省した分だというのに。」

愛子「大丈夫ですよ。」


茅野と呼ばれた支部長はしきりに頭を下げる。

彼は腰の低い人物だった。


茅野「帰ってきて早々なんだけど、君に仕事がある。ボクはこれから他の用事があるから、説明は彼から聞いてくれ。あー…火鳥君」

火鳥「ハイハイ」

愛子「…彼は?」

茅野「うちの二課課長の火鳥明明かとりあきあけ君だ。情報伝達と作戦立案を担当してくれている。それじゃ、後は頼んだよ。」


そう言うと、支部長は席を立ってしまった。

入れ換わって目の前に火鳥が座る。


火鳥「や、ドーモ。火鳥です。早速説明しても良いですか?」

愛子「あ、その前に。火鳥さんでいい?」

火鳥「あ、ハイ。」

愛子「うん、じゃあ続けて?」


火鳥「じゃ、説明させてもらいます。見ればわかると思いますけど、亜霊島は物部さんが取材に行く前とは随分と様変わりしてます」

愛子「そうね」

火鳥「あまりにも急激な変化で、こっちも対処が急務となっているワケデシテ」

火鳥「とりま島開発を取り仕切ってる"威座涛コンツェルン"の内部情報が知りたい、というわけです。」

愛子「つまり、取材してこいってこと?」

火鳥「そうです。物部サンには亜霊島開発代表取締役である海神龍平さんに取材する、という形でコネクションを作ってもらいます」


??「……と、言うのは表向きの偽装情報。本来の目的は別にあります。そうですよね、マスター?」


凡庸に言って合成音声ヴォイスロイドのような声が部屋に響く。

火鳥はやれやれ、といった顔でポケットから携帯情報端末PDAを取り出した。


火鳥「ドーシテ説明を最後までさせてくれないデスカ、アン」

愛子「RB?」

火鳥「まァ、端的に言えば。」

アン「お初にお目にかかります物部様。アンと申します。今回の作戦には、私が同行させていただきます。」


レネゲイドビーイングRB

超常の力が取り付いた物品の総称で、自我を持ち会話することができる。ものによっては人のような姿へと変化し、人間社会に住まう者すらいる。アンはそういったものの一つであった。


愛子「わかった、その端末ごと借りればいいの?」

火鳥「その前に、裏の目的について説明させてもらいます。」

火鳥「エー、取材は表向き。本当の目的はアン…、このRBを用いて威座涛コンツェルンのメインコンピュータにバックドアを作ることが目的です」

愛子「…ここで、話しても大丈夫なの?」

そう言って愛子が眉をひそめる。それに対し火鳥はヘラヘラと返した。

火鳥「誰も聞いてないし、聞いてても信用なんかしませんよ。

堂々と話した方が嘘くさいデショウ?」

愛子「それもそうね」

アン「私がネットワークに介入できれば良かったのですが、残念ながら私ではメタルケーブルの範囲限定でしか能力を行使できません。そのため、私をダイレクトにメインコンピュータに繋ぎ、ハッキングしている間防衛してくれるエージェントが必要なのです」

愛子「荒事になる可能性も考慮しておけと…」

火鳥「喋って誤魔化すのは得意でしょう?キシャなんだから」

愛子「確かにOHANASIは得意かな」

愛子は笑顔でそう答える。

火鳥「……安心安全安穏にコトを運んでくれることを期待してマスヨ?」

火鳥はジト目で返した。

火鳥「……もしヤバイようなら、アンを連れて逃げてくれテモ良いです。人命優先、RB命優先ですから。」

愛子「戦いは出来ればしたくないからね」


アン「ところで、見ての通り、私は自立して移動することもできません。携帯をお願いします。」

火鳥「預けましたよ。そんなナリでもうちの課のエースなんですから、丁寧に扱ってくださいネ?」

愛子「はい、確かに承りました」


アン「……マスター。それには語弊があります。二課はマスター含め二名しか所属していません。エースというには余りにも人数が」

火鳥「黙っててください」

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