第26話

 そして最後の戦いが始まった。

 相手はあの生徒会長と俺たちの仲間のあおいだ。


 手の内はばれているのかもしれないが真っ向勝負を挑むつもりだ。


「問題。保元の乱の首謀者で讃岐に配流された上皇といえば……」

「ピンポン」


 俺は歴史は苦手なので志保が中心となってやってくれる。


 だが今回は敵の方が一歩早かったようだ。


「崇徳上皇」

「ぴんぽーん」


 あおいが答えて電子音が鳴り響く。


「ちなみに保元の乱で崇徳上皇側についた藤原頼長は随身の秦公春との男色関係で有名なんだよお」


 全然聞きたくない解説をしてくれる。


 そうだ。あおいはこういう特殊なジャンルに強いんだった。

 狭く深くといっていたけどなかなか専門的な知識も持ち合わせているようだ。


「見事な正解だあああああああ。あと四問で優勝だぞおおおおおおお」


 司会者はテンション高く実況する。


「先に取られたからってあせるんじゃないぞ」


 ギャラリーの中のマッチョたちが遠くから応援してくれる。


 そうだ。まだ焦ってはいけない。

 先ずれば人を制すという言葉があるがそれを相手に先にやられてしまった。


 歴史は信じて志保に任せるしかない。

 俺ができることといえばわかった瞬間にボタンを押すことだ。


「問題。夏の大三角といえばデネブ、アルタイル、ベガですが、このうちわし座に入っているのは?」


 これはわかる。

 前に勉強していた範囲だ。


「ピンポン」


 俺が早押しボタンに手をかけた瞬間だった。


「小学生でもわかる問題だね。正解はアルタイル」


 生徒会長が自分の前髪をかきあげ斜め四十五度を向いている。

 若干イラッとするのはどうしてだろう。


「渚、あんたの気持ちは分かるわ」


 珍しく志保が俺を励ましてくれる。


「さあ次に切り替えるわよ」


 順当にいけば今度は英語問題が出るはずだ。


「問題。イタリアのナポリに生まれ、自著『自由の歴史』で有名なジョン・アクトンによる名言……」

「ピンポン」


 俺全然わからなかったけどな。志保が答えてくれる。


「Power tends to corrupt, and absolute power corrupts absolutely」

「正解」


 ぴんぽーんと電子音が鳴り響きギャラリーが騒ぎだす。


「うおおおおおおおおおお。蕪木さああああああああああん。やっちまええええええ」

「志保ちゃあああああああああん。このまま追い上げてええええええええ」


 当然だが志保への声援がすごい。


「ちなみに解説をいれるとこの台詞は『権力は腐敗する、絶対的な権力は絶対的に腐敗する』という日本語訳で有名です」


 設営で疲れはてた副会長がよろよろとマイクの方へと向かって説明する。

 これ以上彼に負担をかけられないな。


「さあ三問が終わって二対一。いい勝負になってきたぞおおおおおおおお」


 ここで小休止を挟む司会者。


「ふふーん志保さんもなかなかやるねえ」

「あおいさんもできないと言いつつしっかり点数もぎ取ってるじゃない」


 二人の間でバチバチ火花が飛ぶ。


「おっとおおおおおお。女子二人も燃え上がっているぞおおおおおお。試合もデッドヒートかあああああああああ」


「ふふっ。僕をさしおいて火花を飛ばしているのはやめていただこうか」

「生徒会長……全然聞こえてないですよ」


 自信満々に前髪を掻き分ける生徒会長とそれに突っ込みをいれる副会長。この二人の関係性を垣間見た気がした。


 って俺のこと完全に忘れられてるんだけど。

 まあ俺今のところあんまり役に立っていないからな。


 だが下を向いている時間はない。

 俺もできることからやっていかないとな。


 俺がやる気を出した時だった。その気持ちを挫くような展開になったのは。


「問題。父観阿弥と……」

「ピンポン」


「おっとお。再び柊あおいの番だああああああああ」


 やばい。これはあおいの得意分野だ。


「これはとーぜん、世阿弥」

 ぴんぽーんと電子音が鳴り響く。


「正解だああああああああああ」

 これで三対一。

 あと一問でリーチがかかる。


「ちなみに世阿弥は足利義満との男色関係で有名だよお。でも晩年は別の男に乗り換えられちゃったんだってえ」


 やはりあまり聞きたくない情報が入ってくる。


 日本の歴史ってヤバイね。

 そんなことばかりとか若干怖くなってきたよ。


「大丈夫だよお。足利義満は部下の奥さん奪ったりもっとすごいことしているからあ」


 乱れに乱れまくった内容は聞きたくないぞ。


 というか今のところあおいばかりしか答えていないぞ。

 これは生徒会長の前に彼女をどうにかしないと攻略できないぞ。


「ふふーん。ボクの実力がわかってきたところかなあ?」


 あおいが得意気な顔でこちらを見てくる。


「くそう。あと一問でリーチかよ……」

「ここから先は一歩も引けないわね」


 志保も気合いが入ったようでパンと頬を叩く。


 俺も頑張らないとな。


 そして司会者が大声で実況を続ける。


「ここは後に引けない蕪木・山谷ペアああああああああああ。次の一手はどう出るかああああああ」


「蕪木さああああああああん。負けるなああああああああ」

「志保ちゃあああああああん。ここを乗りきってえええええええ」


 応援にも熱が入る。


 やはり俺の応援はあまり聞こえない。


 だけど。


「山谷あああああああ。諦めるんじゃないぞおおおおおおおお」


 マッチョたちの声が俺を支えてくれる。


「おう。俺も負けてられないよ」


 向こうに手を振る。すると彼らも反応してくれる。


「俺たちの分まで勝てよおおおおおおお」


 人の声が支えてくれるっていいことだな。心からそう思った。


「問題。冬の大三角で有名なオリオン座ですがベテルギウス以外にも一等星があります。それはなんでしょう?」


「ピンポン」


 俺は早押しボタンを勢いで叩く。


 そして。


「リゲル」

「ぴんぽーん」


 正解の音が鳴り響く。

 やった。俺が正解した。


「うおおおおおお。山谷渚が正解したぞおおおおおおおおおお」

「やるなああああああああ。山谷あああああああああああ。愛の力を見せつけてくれたなああああああああああ」


 ギャラリーたちも騒ぎだす。

 これで五分五分に近づけたぞ。


 逆転するにはあと二問だ。


 そして勝利まであと三問。


 道のりは遠いが俺たちは奮起するのだった。


「ありがと渚……。あんたのお陰で持ち直したわ」


 志保も頬を赤らめながら俺の肩をバシバシ叩く。


 恥じらっているのかそれをごまかすためか力がいつもの五割ましだ。


 ちょっとばかしいたい。


 だけどその気持ちは嬉しかった。


「志保、次は英語か歴史問題が出るから任せたぞっ」

「ええ私に任せなさい」


 俺たちは言葉少なだが確認をとる。


 これで二人なら大丈夫だ。

 そう信じられた。

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