第21話
怒濤の二回戦が終わりしばらく休憩がはいった。
多くの生徒たちが給水室で水分補給をしている。
「ふひぃ。ものすごく疲れました。咲ちゃんは大丈夫ですか?」
「ううぅ。疲れたよー」
全身汗だくになりながら後輩二人はスポーツドリンクを口にして勝利の美酒に酔いしれる。
「しかし先輩方に裏切られたときは負けを確信しましたがよかったぁ」
「桜ちゃんも頑張ってくれたから」
読書好きが高じてか伊藤桜の知識量は俺を遥かに凌駕していた。
これで勉強が苦手と主張するのだから世の中わからないものだ。
「咲、からだの方は大丈夫か?」
「ちょっと走っただけだから大丈夫っ。渚は心配しすぎ」
咲はからだが丈夫ではないから激しい運動は医師によって制限されている。
それは大丈夫なのかと尋ねると。
「うー。本当はいけないんだけど今回は桜ちゃんとどうしても勝ちたかったからぁ」
どうやら彼女もリスクをおかしてクイズに挑んだらしい。
「あんまり無理すんなよ。これはあくまでイベントなんだから楽しく参加できればいいよ」
「渚は甘いなあ」
言われた本人はどこ吹く風でやれやれと肩をすくめる。
「この大会に勝たないと徒然部の予算は増えないんだよ。志保先輩だけでも大丈夫かもしれないけど一応可能性は残しておきたいし」
ってさりげなく俺を戦力外扱いしているけど。
「それに副賞は図書券だからね。桜ちゃん喜ばせないと」
「俺の妹ながらいいことを言ってくれる……。お兄ちゃんは嬉しいよ」
咲の成長した台詞を聞いて思わず感動して目頭が熱くなるが。
「ちょっと渚はお隣さんであってお兄ちゃんじゃないから」
冷静に突っ込まれるのであった。
「ふひひ。先輩やりこまれてますね」
伊藤桜がそれを楽しそうに見ている。相変わらず性格がネジ曲がっているようだ。
「伊藤さんも大丈夫なのか? ぜえぜえしてたけど」
「普段闇の世界にいきるダークサイドとしては体力バカたちが集まる競技は苦しいものがありましたが、これも図書券のためっ。私は頑張りますよっ」
前半は何をいっているかちょっとわからないが彼女もやる気のようだ。
「って俺たちのブロックは無事に終わったけどあおいたちの方はどうなってるんだ?」
ずっと気がかりだったことだ。どうやら向こうのブロックも終了したようだが彼女の姿はない。
「体育館でやっていた二回戦ならとっくに終わってるわよ。あおいさんなら私もまだ見かけていないけれど」
志保が親切にも教えてくれる。普段からこのくらいの優しさがあれば文句はないのになと一人ぼやく。
「それをあんたが言う?」
そうしているとこらと志保がげんこつを俺に向ける。
やっぱりこいつは暴力大好き暴れん坊志保ちゃんだ。
「あんた失礼なこと考えているでしょう」
「な、なんのことかな」
すっとぼけると志保が荷物から竹刀を取り出す。
「ってお前いつもそれ携帯しているの?」
「当たり前よ」
ふふんと得意気になるのはどうしてでしょう。俺たちさっきまで仲良く協力していた関係だよね。
バシッ。
竹刀が俺の鼻先すれすれで振り下ろされる。
「弛んでいると次からはこれが待っているってこと忘れないように」
「さっきの鎌倉幕府のところでもしかして怒ってるの?」
俺が先走って1192年って答えたのがまずかったのか。それでビリに戻っちゃったもんな。
「気がつくのが遅いわよっ」
ブンッと竹刀を振る姿はまるでスケバン。
俺は戦慄した。
「まあ過ぎたことは気にしないことにしてあげるけど。今度間違えたらただじゃおかないわよ」
クイズってこんな命がけだっけと思いながら俺はこくこくとうなずく。
「やっほー渚くん。相変わらずいちゃついているねえ」
「あおい……」
これはいちゃついているのではなくいびられているだけだと弁明しようかと思ったがやめにした。
「三回戦進出おめでとう。やっと次でボクも一緒に戦えるよお」
「ありがとな」
どうやらあおいも三回戦に出るらしい。
「それでお前のペアって誰なんだ?」
「ふふん。それは見てのお楽しみだよお」
不適な笑みを浮かべながらそう続ける。
「きっとビックリするよお」
「そこまでもったいぶられると気になってくるな」
「まあそれが目的だからねえ」
意地悪くほほえむあおいだった。
「あおいさん。気になることがあるんだけれど一つ聞いていいかしら?」
「いいよ。なあに?」
志保が珍しく質問をする。大体彼女は一を聞いて十を知るタイプなので人に聞くのは珍しい。
「あおいさん生徒会長と同じブロックだったでしょう」
「うん。そうだねえ」
はっ。忘れていたけどこのクイズ大会は生徒会長が仕組んだものだった。
宣戦布告をしてから一度も姿を見せていないが。
「彼と組んでいる相手を知らない?」
「ふふう。知ってるけどボクの口からは言えないなあ」
のらりくらりと俺たちの質問をかわしていくあおい。
それに苛立ったのか志保はガシガシと髪をかきむしる。
「もういいわ。大体のことはわかったから」
「志保さんは勘がいいねえ」
二人のやり取りで気がつくことがあったのか志保は一人うなずいた。
「なあ。わかったってなにか?」
「後になればわかるわ」
またしてもあおいと同じような口ぶりだ。
そしてどこか歯切れが悪い。
「私の考えが正しければ次はもっときつい戦いになるはずよ」
生徒会長は何をたくらんでいるのだろう。
今まで俺たちの邪魔をするとかそういうのはなかったからフェアなやり方になるのだと信じたい。
いくらこちらに成績優秀、文武両道の志保がいるからといって生徒会長も同じくらい実力はあるのだろう。
ナルシストな人間だがそれ相応の力がある分人にひけらかすのだろう。
あの自己愛ぶりには辟易していたが決して侮れるものでもない。
「先輩方相変わらず暗いですね」
「もっと前向きにしないと!」
思い空気をぶち壊すように後輩二人組が励ましてくれる。
「さっきもですけど心配しすぎてもいいことが起きるわけではありませんから」
「そうそう。そんな顔していると私たちが勝利をもぎ取っていくよ」
ネガティブな伊藤桜も咲の明るさに触発されて言っていることがかなり前向きだ。
二人の組み合わせはいい作用を及ぼしているようだ。
「よしっ生徒会長が何をたくらんでいるか知らないけど俺たちも優勝目指して頑張るぞ」
俺が拳を握り宙に向かって振りかざす。
シャドーボクシングならぬシャドー生徒会長ノックダウンだ。
「その意気その意気」
「はひぃ。先輩方もやる気になってますねっ」
二人のお陰で俺の方まで元気が出てきた。
「渚、あんたは心配しているのなんて似合わないからそのままでいなさい」
なにか考え事をしているようすで志保はそう話す。
「決勝はおそらく生徒会長が待ち受けているはずよ」
三回戦はそれの前哨戦とでも言うべきか。
今度のクイズはまたしても早押し。
集中力が必要とされる競技だ。
俺もそれまで意識を集中させなければ。
「ま、そういうことだからじゃあね渚くん」
俺たちのやり取りを遠目で見ながらあおいは去っていく。
「おう」
相変わらずマイペースなやつだ。掴み所がない。
「三回戦ですべてがわかるから焦らず待っててねえ。ボクも待っているからあ」
そうやってヒラヒラと手を振って女子更衣室に向かっていく。
どうやら着替えるらしい。
俺たちも汗だくなので着替えなければ。
「じゃあ俺も制服に戻るからまた会場で待ち合わせな」
「わかってるわよ」
かくして休憩は終わるのであった。
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