第20話

男子の組の脱落者は三組。残る七組でランニングクイズは始まった。


さてスタートダッシュを切った俺たちに立ちはだかるのは各コーナーにおかれた早押しボックスだった。


「これで正解したら次勝ち抜けるのか?」

「ええそうよ。だから今は全力で走るわよ」


二秒のアドバンテージを得た俺たちは第一問に備える。


「問題。平安時代が始まったのは794年、では鎌倉幕府が成立したのは?」


日本史の問題が出題される。

これは簡単だ。俺が先に早押しボタンを押すと。


「ちょっと待ちなさい」

「いいくに作ろう鎌倉幕府で、答えは1192年」


よしこれで次の三回戦に勝ち抜くことができる、そう思っていると。


「ぶっぶー」


「バカ。渚間違ってるわよっ」

「痛っ。そんなわけないだろ」


志保に頭を叩かれる。おかしいな。確かにいいくに作ろうで覚えてたんだけどな。


「蕪木・山谷ペアアドバンテージをいかせず、もう一度走り直しいいいいいいいい!」


「ちなみに解説をすると1192年は源頼朝が征夷大将軍に任命された年で、現在では1185年が正解です」


横で準備の手伝いをしていた副会長がよれよれになりながらも分かりやすく説明してくれる。


「なんてこったいつのまに教科書改訂されてるんだ」

「あんたはいつの時代の人間よっ」


もう一度パコッと頭をはたかれる。


だって日本史なんて高校受験でも全然できなかったし。

小学校の知識で止まってるんだよ。


「ああ。あんたのせいで走り直しじゃないっ」


俺たちはもと来た道を引き返しダッシュを始める。


「さてえええええええ。次に来たのは筋肉ムキムキマッチョな男子学生二人組いいいいいい」


さっき走っていたのに体力の衰えを全く見せず彼らは走っていった。


「問題。平安時代桓武天皇の治世に征夷大将軍に任命され……」

「坂上田村麻呂」


マッチョは頭もいいらしい。即答する。


「ぴんぽーん」


ピコピコした電子音が鳴り響き彼らは司会者のいる壇上の方へとつれていかれる。


「さあ今回初の正解者はこのお二人いいいいいいいいい。なにかコメントはありますかあああああああああああ」


「勝ったといってもまだまだこれからなので頑張ります」

「次の対戦まで温存していく作戦です」


「なんとおおおおおおおおお。君たち謙虚でクレバーだああああああ。さすが初正答者だあああああ。君たちの栄光を祈っているううううううううう」


司会者の熱烈な応援に答えるように二人は頭を下げる。

マッチョ侮りがたし。


「ってあんたよそ見してないで次いくわよっ」

志保が走りながら突っ込みをいれる。


仕方がないので一生懸命走る。

せっかくリードしていたのに俺が間違ったせいでビリに戻っていた。


その間にも新たな回答者が現れる。


彼らが正解すれば残りは三枠となる。

全部で九ペア残っているので上位を目指して走り込まなければならない。


「問題。太陽、月、地球の順に並んで太陽のほとんどが隠れて周りから光が漏れ出る現象のことをなんというでしょう」


あっ。俺これ知ってる。

この間勉強したやつだ。


だがわかっても距離が足りず頭の良さそうな男女のペアが早押しボタンを押す。


「金環日食」

「ぴんぽーん」


くそ。これなら俺でもわかったのに。

心のそこから悔しかった。


「ああ。俺もわかったのにっ」

「悔しがる前にとにかく走るっ」


走りながら俺の頭を叩くという器用な真似をしてみせた志保は息を切らしながらも確実に前との距離を縮める。


そして一組、二組、と順に追い上げていく。

つまり今は六番手。

残り半分に入るにはあと三組追い抜く必要があった。


「志保っ大丈夫かっ」

「あんたは人の心配をする前に自分の心配をしなさいっ」


苦しそうに息をしながらもペースは落とさない。さすが剣道部所属の体力だ。

男の俺に負けていない。


「よしっもっとスピードをあげるぞっ」

「わかってるわよっ」


その言葉をきっかけに俺たちは加速する。


そして一組、二組と抜き去っていき。


前には三組残っていた。


つまりあと一組追い越せば勝つことができるということだ。


「問題。英語で両面焼きの目玉焼きはエッグスオーバーイージー。では片面焼きは?」

そんなもん知らねえよと思いながら走り続ける。

頼む。誰か間違ってくれ。

だが勝負の女神は無慈悲にも俺たちの思いを裏切る。


「サニーサイドアップ」

「ぴんぽーん」


女子のペアが正解する。


「おっと。仲良し二年生女子ペアが正解だああああああああああ。残る枠は二組。さあ誰が生き残るかああああああああああああ」


目の前に走っているのは二組。

一番前を走っているのは三年生男子のペア。


そして次に走っているのは。


咲と伊藤桜だった。


二人は苦しそうに走っていたが簡単に抜けそうもない。


まずい。どうしたら勝てるのだろう。


そうやって考え事をしている間にも男子二人が早押しボックスにたどり着く。


これは徒然部同士の俺たちが潰し会う展開になるのか。


俺たちは咲と伊藤桜を必死に追い上げる。


「ふひぃ。先輩方が怒濤の勢いでやってくるのですぅ」

「桜ちゃん前を向いて走るんだよっ」


文化系の二人には苦しい戦いだった。


「悪いな。俺たちが先にいかせてもらう」


志保と俺はぜえはあ息をしながら彼女たちの前をいく。

二人には悪いが俺たちが勝たせてもらう。


「問題。徳川幕府が大政奉還で終末を迎えたのは1867年ですが鎌倉幕府が滅亡したのは何年でしょう」


問題は何の因果かまた鎌倉時代。これは俺も知らないぞ。

志保の方を見ると彼女はにやりと不適な笑みを浮かべた。


「ええと。1336年」


男子二人は迷っているようだったがはっきりと答える。


頼む。外れてくれ。


そう願っていると。


「ぶっぶー」


彼らは不正解だった。


「残念んんんん。君たちはまた一からやり直しだああああああああ」


もはや彼らに勝ち目はなくなった。

男子二人組はとぼとぼと帰っていく。


「今回は特別チャーンス。間違えた答えに参加者がもう一回チャレンジできますううううううううう」


司会者がテンション高くそう告げる。


そしてようやく早押しボタンに手をかける。


「ふひぃ。先輩方この恨みは忘れませんよっ」

「ううっ。咲も悔しいっ」


徒然部後輩コンビが恨みがましい視線を向けてくる。

でも。


「正解は1333年よ」


志保がいとも簡単に答えてしまう。


そして。


「ぴんぽーん」


電子音が鳴り響く。


「蕪木・山谷ペアの正解だあああああああああああ。残り二組のうちどちらが勝利をつかむかああああああああああ」


「ちなみに解説いれると1333年が鎌倉幕府滅亡。1336年に建武式目が成立し足利尊氏による室町幕府が始まります」


副会長がこれまた丁寧に説明してくれる。ありがたいがそんなの細かすぎて全然覚えてない。


「いちみさんざん北条氏滅亡って覚えると簡単よ」


志保がさらに解説してくれる。


「へえお前詳しいな」

「鎌倉末期はあの兼好法師が活躍した時代なのよ。徒然部たるものこれくらい覚えておかないと」


そういやあおいもそんなこと言ってたっけ。

ふむふむとうなずいていると最後に咲と伊藤桜が早押しボタンに手をかける。


「問題。応仁の乱が起きたのは1467年。では壬申の乱が起きたのは何年でしょうか」

「ぜえはあぜえはあ672年」


伊藤桜は執念の目で司会者を見つめる。


「さあここで地獄のやり直しかあああああああ。それとも三回戦進出となるかああああああああ。運命はいかにいいいいいいいいいいい」


チクタクと時計の針が動くのが耳にはいる。

緊張感が走り一同が息を飲む。


そして。


「ぴんぽーん」


「なんと正解だああああああああああああ。一年生女子ルーキーが三回戦進出をもぎ取ったぞおおおおおおおおおおおおお」


そして最終回答者が出て二回戦は終了した。


「ちなみに解説をいれると……」


副会長は話そうとするがギャラリーが騒ぐので全く聞こえない。


だが一つわかるのは。

俺たち徒然部は勝利を勝ち取ったということだ。


次は三回戦。

別のブロックの勝者たちが出てくるのだ。


あおいが勝ち残っているのか。

それが気がかりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る