第19話
かくして二回戦が始まった。
幸か不幸か俺たちは咲と伊藤桜と同じブロック。
二十組を二つのブロックに分けてさらにその中の半分が切られる。
目で見てわかる分結構シビアな条件だ。
「さてええええええええ。今回は前回のマルバツクイズを勝ち抜けてきた猛者たちの対決だぞおおおおおおおおおお」
司会者が一般生徒にもわかるように参加者を紹介していく。
「一番から十番まであるからみんな覚えていくようにいいいいいいいい」
というかこの人本当にテンションが高いな。
「さてエントリーナンバー三番は一年生女子ルーキーの登場だああああああああ」
順番に紹介がすまされまずは徒然部の後輩たちに振られる。
「なんと二人は最近同じ部活で知り合ったんだってええええええええ?しかもその名は徒然部。なんともクールでインテリジェントな部活だねええええええええ」
宣伝ありがとうと心のうちで呟く。
「さあ二人から意気込みを」
司会者が二人にマイクを向けた。当然なにかを言わないといけないということで。
「頑張りまーす!」
咲が元気よく返事をするのとは対照的に伊藤桜はガチガチで。
「が、がががががむばりましゅう」
噛みすぎて全然わからないぞ。
そして他の参加者の紹介も徐々に進んでいき、ついに俺たちの番になる。
「エントリーナンバー10。トリを飾ってくれるのはこれまた徒然部の爽やかカップル蕪木・山谷ペアだあああああああああ」
やっぱり来たか。でも今回は志保がお守りを渡してくれたお陰かあまり緊張しなかった。
「さてえええええええええ。二人は校内公認カップルというほど仲良しなんだってええええええええ?是非とも二人の愛の形を見せつけてほしいなああああああ」
ちょっと台詞が気になるが動じたら敗けだ。
「こほん。周囲がなんと言おうと私たちは勝つだけよ」
志保が咳払いをして一言呟く。
っていうか俺もなにか言わなくちゃ。
「女子の蕪木さん実にカッコイイねえええええええええええ。さあ山谷くんもなにか一言」
「校内カップルとか言われてもめげません。頑張ります」
その言葉に志保が俺の腕をつねる。
「痛ええ」
「なんのことかしら?」
悶える俺とすっとぼける志保。
「さっそく仲のよさを見せつけられたぞおおおおおおおおおお。オジサンも君たちの健闘を祈ってるううううううううううう」
そして全員の紹介が終わる。
次に説明されるのはクイズの内容だ。
「さてええええええええええ。今回の出題形式はコチラ!」
ドラム音が炸裂して鳴り終わったと同時にステージがライトアップされる。
「ランニング早押しクイズだああああああああああああ」
ん? ランニングとクイズ?
どういうことだ。
「簡単にルールを説明しよう。君たちにはグラウンド一周を走り続けてもらう。そして各コーナーでクイズが出題される。それに答えられた順から早抜けするというルールだ。不正解なら走り直し、ペアのうち一人でも脱落したら敗けだああああああああ」
どうやら体力と知力を組み合わせた出題形式のようだ。
でもこれって男子の方が有利なような気がする。
「ここで男子が有利だと思った諸君んんんんん。男子には特別ルールとして先にグラウンド十周を走ってもらう」
なんだそれ結構きついじゃないか。
「知ってるかいいいいいいいい。知力、体力、時の運。そのすべてを制したものこそが勝者だああああああああ」
なんかどこかの誰かがいっていた台詞だな。
たしか生徒会長がいっていた台詞だったなあ、なんて思い出しながら俺たちは準備にはいる。
「まずは男子いいいいいいいいい。グラウンド十周してもらうぞおおおおおおおお」
笛の合図と共に俺たち男子は走り始める。
しかしなかにはひ弱そうな学生もいるからこのルール結構厳しいんじゃないか。
「渚、遅れたら許さないんだからねっ」
「おうおう」
ゴールギリギリのところで待っている志保から叱咤激励が送られる。
それに手を振りながら応える俺だった。
体は鍛えてあるので並みの学生くらいには体力はある。
一部マッチョな男子生徒も混じっているが大抵は普通そうなやつらばかりだ。
マッチョたちは自分のペースがわかっているのかやみくもにスピードをあげたりはしない。
俺もあまり急がず後半に体力を温存できるようにしておいた。
しかし別のブロックはどこでクイズをやっているのだろう。
俺たちが学校のグラウンドを使っているのだから恐らく体育館かなにかか。
そのなかであおいは誰と走っているのだろう。
伊藤桜の言葉が耳に残りつい思い出してしまうのだ。
俺としては身内を疑うような真似をしたくないけれど。
「渚っ。ペース落ちてるわよっ」
五周目に入り志保が大声をあげる。いかん。今は走ることに集中するんだった。
しかし男女平等を図るためとはいえ結構しんどいな。
自分のペースを守りつつも周囲に目をやり状況を判断する。
一割くらいの生徒がすでに脱落していた。
まあクイズって聞いたら普通頭脳プレーだもんな。
そしてその様子をギャラリーと女子たちが見守っている。
「これって運動部以外は結構厳しいんじゃ」
残っている男子を見てもほとんどが運動系の部活に所属している生徒だった。
俺も息が切れてきたが辛抱強く走り続ける。
そして残り一周となった。
マッチョたちは徐々にペースを上げてきているし運動部も慣れた様子で走っている。
そのなかで生き残っている文化系は俺と他に一人しかいない。
運動部侮りがたし。
「渚、あとちょっとよっ」
ゴール前で志保が俺の名を呼ぶ。
それに応えるように俺はスピードをあげる。
走りきれば問題ないんだろうけどビリだけは避けたいしな。
運動部に勝てるとは思っていなかってけれど負けたくはない。
みんなこの後のクイズに備えて力を温存しているのはわかる。
だからむやみやたらにスピードをあげるのは懸命だとは思わなかったが。
そして一人、二人と抜いていく。
「渚がんばれえええ」
「あと少しっ」
咲と伊藤桜の姿もあった。彼女たちもライバルとはいえ応援してくれる。
そして最後に。
「ゴールインッ」
司会者がマイクでそう叫ぶ。
「山谷渚君んんんん。よくやったああああああああ。君が男子一位だあああああああああああ」
そして得点として走る際のアドバンテージを与えてもらう。
「蕪木・山谷ペアは二秒早くスタートできるぞおおおおおおお」
「おっラッキー」
「よくやったわね。渚っ」
志保が俺の肩を叩く。バカ力なので結構いたいが今は嬉しいので気にしない。
「次の本番では全力で走るわよ」
今走ったばかりなので結構息は上がっていたがまだぎりぎり体力は残っていた。
志保も運動部に所属しているので走る分には問題なさそうだ。
アップも済ませてあるし髪をひとつに結い上げて準備は万端だ。
「ではランニングクイズの本番のスタートだあああああああああ」
グラウンドのコーナーには早押しボックスが設置され設営も十分行われているようだった。心のなかで運営してくれている副会長に感謝の念を送る。
「三、二、一。スタート」
俺たちは合図と共に走り出す。
そして二秒後に残りの全員がスタートをきる。
これが戦いの始まりだった。
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