「わたし達は、セルジナさんとあやめさんを亡命させるつもりです。それで、力を借りに来たというのも、今回来た理由の一つです」


「あ、わかった。翠ね? 翠もちょっと親とケンカしたみたいだけど、いまはいちおうヨリ戻ってるらしいから、うん、お金できっとなんとかなると思うわ」


「そうなら、いいんですが」

由布が沈んだ顔をすると、胸元からブツブツという声が聞こえた。


「なんだい、日本に帰ってきたら急に辛気臭くなって。もっと向こうにいるときみたいにパリッとしなよ」


遥は首を突き出して、由布の胸元を覗きこんだ。


「これ、です」

由布は、チェーンで首から下げているメダルを手に取ると、遥の前に差し出した。


「『これ』って言い方はやめてって言ってるじゃない」

「すみません」


遥はわあおと驚きの声を上げた。

「うわあ、すごいすごい。話には聞いてたけど、ええー? ねえ、ねえ、ほんとに桜なの?」


「そうだよ。他に誰がいるのさ?」

メダルが怒鳴った。


「ま、まあ、そう怒らずに…」

由布がなだめて、メダルをこすった。


遥は指を伸ばして、五百円玉ぐらいの大きさのメダルに指で触れた。

「ふーん。驚きね。こんなもののなかに、桜がいるの?」


「『こんなもの』ってのはやめてってば。あのね、これは僕のテクノロジーの結晶なの。僕はこれで、人類の永遠の夢をかなえたんだから」

「永遠の夢?」


「不老不死。このメダルは地球が三回爆発しても壊れないから、半永久的に僕の記憶は維持されるし、容量にはまだ半分以上余裕があるからね。少なくともあと百年はたっぷりと勉強させてもらうよ」


遥はメダルを元に戻すと、肩をすくめた。

「ま、わからないではないけど。でも、よく体を捨てる決心なんか出来たわね。あたしには絶対できないなあ」


「半分は不可抗力さ。こうする他に助かる道がなかったんだ」

桜=メダルは自嘲気味に笑った。


「桜さんは地雷に体をやられて…」

「ま、思いきって体を捨ててね、情報と神経活動だけをこのメダルに封入したわけ。んで、あとは、由布と一緒にずっと行動してるの」


「ふーん」

遥は、桜らしいと思いながらも、その、あまりに突飛な選択に、どういう反応をしたらいいのか迷った。


そんな遥の表情を察したのか、桜が言った。

「いいんだよ、あのままほっとけば死んじゃうところだったんだから。それにね、メダルってのも結構いいもんだよ。いや、由布ってほら、かっこいいしね、毅然としててね、こう、なかなか言い寄る男が多くてさ。またどきどきする由布の心臓の音がここにいるとよく聞こえるん…あ、ちょっと、なに、電源切らないで~」


「あまりそんなことを話さないでください」

由布は顔を赤らめてメダルを小突いた。

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