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気がつくと、遥の前に女性が立っていた。
遥はその顔を見て眼をしばたたいて、そして、飛び上がって抱きついた。
「由布! 久しぶりね! もう、めちゃくちゃ会いたかったんだから!」
由布は、目を閉じて遥の荒っぽい抱擁に身を任せていた。
「わたしも会いたかったですよ、みなさんに」
二人はしばらくきゅっと抱き合っていた。
「セルジナはどうなの? なんか、和平交渉に入ったって話だけど?」
遥は尋ねた。
セルジナは、セルジナ新藤と高幡あやめが、王政を捨て完全民主制に移行しようとしたところに、軍部の反発によるクーデターが発生し、結局セルジナ王子が民主政府の設立のために再決起するという内乱状態にある。
それを知った由布と桜は、せっかく入った大学もほっぽり出して、二人でセルジナに渡航してしまった。
隣国から、桜の開発した特殊潜航艇S16号とやらを使って侵入したのだそうだ。
「いちおう、来年のクリスマスまでは暫定休戦という形になりました。裏では和平交渉が進められています」
「んで、結局、王政派が勝っちゃうの?」
「そうだと思います。武力では、王政派も民主派も力は拮抗していますが、ただ、セルジナさんは、これ以上戦いが続くことを望んでいないのです」
「あの王子さんが?」
「いまは王権を剥奪されていますから、ただのセルジナさんです。セルジナさんは、戦争の不毛さに気付いているんです。戦いを続けて国土を疲弊させ、民衆を犠牲にするぐらいなら、いっそ、偽りでもいいから平和のほうがいいと、そう思っているんです」
「…悲しい。あやめさんは?」
「付き添っていますよ。思ったよりずっと芯が強い人です。いまもわたしと連絡を取り合っています。わたしが日本に帰ってきたのもそれが理由の一つですし」
「どういうこと?」
由布は眉をひそめた。
「和平条件のなかに、反逆者として、セルジナさんを処刑することが含まれているんです」
「な!」
遥は目をむいた。
怒ってもしょうがないのだが由布に怒った。
「そんなムチャクチャな!」
「でも、セルジナさんはたぶん、民衆のためにその条件をのむでしょう」
由布はそう言って、空港を見回した。
ここは平和。
レンパ・セルジナ空港は、いま、見る影もない廃虚になっている。
由布と桜がセルジナに入ってから、二年。
日が経つごとに瓦礫と死人が増えていくばかりだった。
人間は何度でも同じことを繰り返す。
学習能力なんて、なんのためにあるのかわからない。
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