「なんで、なんでそんなもんつくったんだよ…なあ、どうしてだよ?」

博斗はシータの肩を揺すった。


シータは、目を反らした。

「お前達の核兵器も、同じだろう? 規模は私達に遠く及ばないがな」


「そんなこと、わかってるよ。言われなくたってわかってるよ! 俺達の世界が助かろうって考えるのは偽善だってか? わかってるさ。偽善でもなんでもいい。けどさ、この世界には、まだ死ぬには早い奴らがたくさんいるんだよ。まだ滅びるにはちょっとだけ早いと思うんだよ」


博斗は、痛む体を庇いながら、歯を食いしばって立ち上がった。

涙は止まった。

涙で世界が救えるんなら絞ってでも流してやる。

いまは、泣くべきときじゃない。


博斗はシータの肩に手を置き、尋ねた。

「どうすればミョルニールを止められる?」


シータは博斗の手を押さえ、静かに振りほどくと、よろよろと立ち上がった。


「無理だ。ミョルニールは我々の最後の兵器だ。止める方法はマヌとホルスしか知らん。そしてそのどちらももうこの世にはいない。…すべて、無駄になってしまったな、博斗。残念だよ」

シータは力なく笑った。


「む、無責任なことを言うなっ!」

博斗は拳でシータの顔を殴りつけた。


意外なほどシータの体は軽く、あっけなく一メートルぐらい飛ばされて倒れた。


博斗は、はっとして慌ててシータに駆け寄った。

くそっ、なんてこった!


俺が感情的になってどうするんだ!

いまさら傷つけあってどうするんだ!

人間ってのは、どこまでアホなんだ?

世界が滅びるかもしれないときでも、それでも喧嘩するなんて!


博斗はシータの腋の下に肩を入れ、助け起こした。

「すまない…。殴ったりして、悪かった。すまなかった」


シータは苦笑した。

「いい。私の償いだ。ひかりの言った通りだ。私の判断が遅すぎた。もっと早くに、私が私の心に気付いて行動していれば…」


博斗は険しい顔でシータを見つめて言った。

「ぐだぐだ言うなよ。後悔なんかするぐらいならはじめからするなよ。せっかく全部終わったんだぞ。もう、怪人が学校や街や子ども達を襲うこともないし…お前だって、仮面をつける必要なんかないんだぞ?」


シータははっと息を呑んで、そして嘆息した。

「そうなればどんなによかっただろうな。…だが、それはありえない夢だ。もう、すべて終わるのだから。全世界は放射能の灰に覆われ、すべては終わりを遂げる」


博斗は顔を上げ、そこに見えないなにかを、きっと見据えた。

「イヤなこった。俺は絶対あきらめない! これからだぞ。これから、新しい時代を始めるんだぞ! ひかりさんと約束したんだ。だから俺はあきらめない。どんなに無様で悪あがきでも、まだあきらめない」


博斗は足を踏み出した。

「…残された時間は? そのぐらいわかるだろう?」


「あと、三十分というところだろうな。間隔が短くなっていくかすかな震動を感じるだろう? この間隔がなくなったときが、終わりのときだ」


博斗は動きを止め、耳を澄ました。


どーん。






どーん。


間隔は一分ちょっと。

まだ、悪あがきするぐらいの時間はあるみたいだ。


博斗は夢遊病に憑かれたようにふらふらと歩き始めた。


その手を、シータが引っ張る。

「どこにいくつもりだ?」


「動力室ってのはどこだ? お前が動かしたんだ、知ってるんだろう? 案内しろ!」

「動力室に行って、どうする?」

「動力が止まればミサイルも発射できないだろ?」


「無駄だ。一度動いた動力炉が停止するには三日はかかる」

「知るかそんなもん! そんなの、行ってから考える!」


シータはくすくすと笑い始めた。

「わかった。お前には負けた。動力室まで案内する」

「サンキュー。死んだら天国から感謝してやる」


「もう一つ教える」

シータが言った。


「たった一つだけ、ミョルニールを停止させる方法がある」


博斗は足を止めた。

「…なんだ?」


「動力炉を自爆させる」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る