最終話「さらば瀬谷博斗」

最終話「さらば瀬谷博斗」 1

「…なに? 俺達に勝利がこないだと?」

博斗はマヌの言葉に顔を上げた。


シータが後ろではっと息を呑む音がいやにはっきりと聞こえた。


「パンドラキーによって、動力炉はすでに起動した。私の計画は、実現に向けて着実に進行している。間もなく地上のあらゆる場所に、天の火が降り注ぐだろう。我らが最大にして最後の兵器、ミョルニールが、全地上を灰塵に帰すのだ」


博斗は、口をぱこんと開けた。

天の火って、なんだ?

聞いたことがあるぞ。

思い出せ、博斗。

マヌはなにか、とんでもないことをお土産に残してくれようとしているみたいだ。


「で、でたらめを言うな!」

「でたらめかどうか…その女に聞くがいい…。その女が、パンドラキーを回した本人なのだからな…。く、ぐぐぐががっ! ががががあぁぁぁ!」


マヌの下顎ががっくりと外れ、皮膚と肉がすっかりと消滅した。

頭蓋骨はゆらめき、床に横倒しに転がり、そのまま円を描いてころころと、ちょうど王冠のある柱のたもとまで転がると、そこで止まり静かになった。


思い出した。

聖書だ。

いかずちがソドムとゴモラを壊滅させた。


博斗は振り向き、がばとシータの肩をつかんだ。

「シータっ、教えろっ! ミョルニールってのはなんなんだっ! 正確なことを詳しく教えてくれっ!」


「わ、私も原理を詳しく知っているわけではない」

「いいから、知ってることを教えろ!」


「天空に打ち上げ、地球の引力を利用して落下させる核兵器だ。圧倒的な破壊力を秘め、一発で東京ぐらいは消滅する。それが、網の目状に、地球上のあらゆる場所に無駄なく狙いを定め、地球の表面をすべてカバーしている。神の怒りを瞬時に具現化するための兵器だよ」


「いまふうに言えば、大陸間弾道ミサイル、か」


唇を噛み締めたが、駄目だった。

涙がこぼれてきた。


俺は…無力だ。

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