16

マヌは玉座まで這っていた。

そして、玉座の肘掛けに両手首を乗せると、そこで力尽きたようにごろんと仰向けに倒れた。


博斗は、すぐそばに、光を失ったグラムドリングの柄が転がっているのを見つけ、手を伸ばした。


握ってみたが、刀身は出ない。

意志の集中が足りないのか。

いや、そういう感じではない。


壊れている。


あのときと、同じだ。

オシリスがイシスを助けるために道を切り開いたときと同じだ。

もう使うこともないだろうと思ったが、やはり愛着があった。

博斗は、ポケットにグラムドリングをねじこんだ。


そして、布の塊と化しているマヌに近づいた。


こんなになってもまだ生きている。

なにかまだ企んでいることがあるのか。


博斗の足になにかが当たった。

くすんだ色をした簡素な王冠だ。

こんなものが、この男を、いままで、支配者たらしめていたんだ。


博斗は、王冠を蹴飛ばした。

乾いた音をして王冠は滑り、柱に当たってカラカラと転がった。


突如、灰色の布の中から、骨張った腕が突き出され、博斗の足首をはたいた。


バランスを崩して博斗は転倒した。

僧衣が動き、憎悪と絶望に満ちたマヌの顔が現れた。


恐ろしい寒気が襲ってくる。

博斗は両足でマヌの顔面を蹴った。


ほとんど手応えなく、あっけなく、マヌの首がボロロッと体から取れた。

黒い灰が僧衣から吹き出し、その身体がみるみる灰となって消滅していった。


マヌの首から上だけがごろごろと転がり、そして、しっかりと博斗を見据えた状態で静止した。


皮膚はみるみる黒ずみ、こぼれおちていき、茶色っぽい頭蓋骨が次第にあらわになっていった。

そして、下顎の骨がカクンと落ち、上に戻り、カタカタと響きながら、声高に喋り始めた。


「わ、我々は負けた。…だが、地上人類にも、勝利はやってこない」

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