15

博斗とシータは危険も顧みずに振り向いた。

すでに収拾しつつある爆発の最後の光が見えた。


カツンと小さな音を立てて、光を失ったグラムドリングが床に落ちた。


次に、ボスッとなんともいいがたい音がして、博斗は、ほとんど布きれの塊になってしまったマヌの身体が床に倒れたのを見た。

くわっと、そのなかの一本一本の血管まで浮き上がって見えるほど見開かれた眼球が、倒れゆくそのときまで博斗を睨み付けていた。


マヌが床に崩れると、追うようにして博斗の横でシータもふらりとバランスを崩した。

博斗は、力尽きたシータの手をつかんだが、そうしてから自分も極限まで疲労していることに気付き、シータをゆっくりと床に座らせるだけにした。


そして自分は、足を引き摺って、冷たい床に眠っているひかりに歩み寄り、そのすぐ横に膝をついた。


ひかりは目をつむり胸の傷に手を当てていたが、まだかすかにひゅぅひゅぅと息をしていた。


博斗はひかりの手を握った。

まだ温かい。

だが冷たくなるのも時間の問題と思えた。


「ひかりさん。…これでよかったのかい?」


博斗は自分の頭のなかに二人の自分がいることに気付いた。

一人はもうひかりは時間の問題だと言っていてそれが正しいということはわかっているのにもう一人はひかりを連れて帰ろうなどという狂気じみたことを考えている。


「博斗さん……」

ひかりがささやいた。

「…ありがとうございました。わかってもらえましたね。私が信じたかったことが」


「なに考えてんだ、なにがありがとうだよちっともありがたくなんかないじゃないか。寂しすぎるんだよひかりさん、どうして譲ったりするんだ? 一万年も、一万年も俺をずっと待ってたんだろう…それで、どうして仲人のオヤジみたいなわけわかんないことして…こんなんじゃ…」


「いいんです、これで。私は、あなたのおかげで幸せだと思えたときを過ごしましたから。次は、彼女にあなたの愛を…」


「駄目だそんなの! 人間、いくらでも幸せになる権利があるんだぞ、幸せには上限なんかないんだぞ! 満足なんかしてんなよっ!」


ひかりの唇が笑った。

「だってこれは…あなたが決めた道ですよ? あなたが彼女と歩むと決めたんですよ? 責任をもって、成し遂げて…ぁ…ぁ…暗い暗くなって…最期は…」


博斗は絶句して、ひかりの手に頬をこすりつけた。

「…わかった、わかった、俺が悪かった、もうなにも言わない、だから頼むから、次は言わないでくれ、な、な?」


「…せめて…あなたの腕…」


博斗はひかりの背中に手を差し入れて、腕のなかにしっかりとかき抱いた。

「これで、これでいいかいいのか、ひかりさん?」


「…えぇ…これが私の探していた…」


ひかりの唇が動かなくなり、いきなり両腕にかかる重みが増した。

身体ではなくて物を抱いているようにぐにゃりと手応えがなくなった。


博斗はひかりの頬に顔をうずめて鳴咽した。


背中になにかが触れた。

振り向かなくてもそれがシータの手であることがわかった。


シータが、博斗の背中に顔を伏せ、低く泣いていた。

「どうして私が生き残るんだ、どうして…私なんかが…」


博斗は、シータになにか言葉をかけなければならないと、振り向いた。


そして信じられないものを見た。


マヌの死体がない。

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