6
シータが風を身にまとい、博斗目がけて斬りかかった。
博斗はグラムドリングを横に返して、なんとかシータの二本の刀を同時に受け止めようとした。
一本は正面からグラムドリングめがけて振り下ろされた。
これは止められる!
だが…!
脇腹めがけてもう一刀が食い込んできた。
太刀が抜けた。
博斗は、脇腹に鈍痛を感じながら、二歩、三歩と後退した。
…鈍痛?
シータが次の攻撃を繰り出した。
身体が反射的に動き、グラムドリングの炎でその一太刀をかろうじて止めたが、すでにバランスを崩していた博斗には、その勢いまで殺すことは出来なかった。
「あ!」
博斗は腰砕けになってそのまま後ろに尻餅をついた。
脇腹がひりひりと痛むが、生きているということは、切れていないに違いない。
鈍痛がしたということからしておかしいのだ。
少しだけ首を傾けてちらと脇腹を見ると、血が流れているどころか、革ジャンの生地すら切れていない。
どういうことだ、これは?
シータがやってきた。
圧倒的な勢いで迫るシータの攻撃を受けきれるはずもなく、シータの太刀筋が、シュッ、シュッと博斗の腕や肩をかすめていく。
しかし、博斗の身体には衝撃による痛みは感じられるのだが、革ジャンの生地には相変わらず傷一つつかず、その下の博斗の身体も、切れずに済んでいる。
効果がないと悟ったか、より強力な一撃を浴びせようと、シータは二本の太刀を前後に振り上げながら、勢いをつけて突進してきた。
博斗は、思いきった賭けに出た。
シータの悪魔のような鋭い攻撃が襲ったが、博斗は背中を向け、革ジャンの無地の背中に、その直撃を浴びた。
打撃の衝撃で博斗の足場の床がみしっとひび割れた。
背中に焼け付くような重い痛みが走ったが、「斬られた」と思うような熱さはなかった。
博斗はすぐにその場から離れ、左手で背中を探った。
思った通り革ジャンに傷一つない。
伝わってくるのは、打撃による痛みだけ。
立ち上がってようやく攻撃的な表情を浮かべ始めた博斗と対照的に、シータは、表情も声もなかったが、明らかに戸惑っているようであった。
不意に刀を、なにもない空間に向けて振ると、その衝撃波だけで、石柱の一つがきれいに斜めに斬り落とされ、その切れ味が確かなことを博斗にもシータにも再確認させた。
間違いない。
博斗は確信した。
革ジャンだ。
あんな切羽詰まった状況でわざわざプレゼントをしてきたことが妙だったのだ。
この革ジャンに、なにかしらの防御機構がしくんであるのだ。いかにも桜がやりそうなことだ。
「よ、よし…これなら…勝負になるかもしれない」
博斗は、やや落ち着きを取り戻し、あらためてグラムドリングを正眼に構えた。
対照的にシータは、自分の攻撃がなぜ博斗に効かないのか、まだ答えを見つけていない様子で、のろのろとした動きで刀を博斗に向けた。
博斗は、最初の問題に立ち返って考えた。
どうすれば、シータを殺さずに負かすことが出来るのか。
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