殺さずに負かす。


はたしてそんな夢のようなことが出来ると思うのか?


シータの再洗脳を解けばいいはずだ。

洗脳されていないシータは、博斗達に刃を向けないはずだから。


ではどうすれば洗脳が解ける?


博斗は答えを求めるように視線をシータの無表情な仮面に這わせた。


仮面。

仮面を剥がす。


仮面が剥がれればシータは稲穂になる。

戦わなくなる。

きっと。


シータは、右足を大きく前に踏み込み、腰をずいと沈めた。


博斗はじっとシータの動きに注視しながら、自身の緊張も高めていった。

攻撃を浴びても大丈夫だ、それが革ジャンである限りは。

自分が生き延びる可能性というヤツに望みが出てきた。


シータがやってきた。

相変わらず無表情なまま。


身体を縮めてかろうじてその一刀をしのいだが、シータの左手に握られたもう一振りが、首から肩口に迫ってくるのが見えた。

シータはそのおそるべき洞察力をもって、博斗の無防備な場所をすでに見抜いていたのだ。


博斗は、グラムドリングを握っている右腕を、シータの刃と自分の首の間に差し出し、腕でシータの刃を食い止めた。

おそろしい圧力が瞬間的に訪れ、斬られなくても砕かれる、ということを悟った博斗は、シータの圧力に抗するのをやめて力をやや抜いた。


ばぁっと衝撃が訪れ、博斗は吹き飛ばされた。


よろめいて部屋の隅まで転げ、シータの攻撃を受けとめた革ジャンの生地が引き裂かれていることに気付いた。

シータがその気になると、このぐらいの防御はあってもなくても同じらしい。


博斗に考える隙を与えないつもりらしく、シータは、ひゅんひゅん風を切る音を立てながら休まずに攻撃してきた。


ビッ。


また革ジャンに新しい傷が生まれた。


シータの刃が半月を描き下降した。

脚を狙われていると悟り、博斗は身をよじりながらグラムドリングを傾け、その一撃を食い止めた。


だが代わりに、反対の肩口に強烈な痛みを感じて思わず息を漏らした。

びりびりと痺れが広がってきて、声が出ない。


シータは、博斗の肩に叩きつけた二振り目の刀を、なおも強烈に肩に食い込ませてくる。

ぶすぶす。

革の生地がくすぶっている。


さらにシータの一振り目の刀が、手品のような動きを見せ、グラムドリングの刃を絡め取ると、勢いよく振り払った。


しまった、と思ったときには、グラムドリングは博斗の手を離れ、炎を失い、こんと床に落ちた。


シータはご丁寧にもそれをさらに靴で蹴り飛ばし、部屋の中央のほう、博斗の手の届かないところに送ってしまった。


シータが刀を振り上げた。

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