11
六時。
この季節では、夜はまだその支配力を辺りに強く及ぼしていて、永遠に明けることがないかのように思える。
博斗は、遥達を前にして、自分の失態を包み隠さず説明した。
そして、あらためて遥達に頭を下げ、死地への前進を依頼した。
遥達は快諾した。
そうなるだろうということは博斗にはわかっていた。
だが、あらためて確かめる必要があった。
それは一つの儀式なのだ。
勝ち目の薄い戦いを、少しでも勝ち目のあるものに変えていくためには必要な儀式。
険しい顔で席を立とうとした博斗の元に、五人が集まり、扇状に囲んだ。
「いまを逃すと、当分チャンスがないような気がしたから、いま渡します」
「渡す? なにを?」
「博斗先生、いつも着たきり雀なんで、たまにはこんなの着てください」
遥と翠が、隠していたものを出した。
「なんだ、これは?」
博斗は、きょとんとして聞き返した。
「見ての通り、革ジャンですわ」
「僕らのワリカンでね。プレゼント。博斗せんせにお世話になってるから、お返しね」
「心がこもっている革ジャンだから、きっと、先生のことを、守ってくれますよ」
「はやく、きてみてみて?」
博斗は、まったく予期もしていなかった思いがけない贈り物に、不意に涙腺を刺激させられ、顔を歪めて耐えた。
「俺のサイズなんか、よく知ってたな?」
「うふふ。我々の諜報能力を甘くみてはいけない」
「ふっ。やれやれ」
博斗は苦笑しながら、おずおずと袖を通した。
「うふふっ。ぴったりですね」
「似合ってますわよ。いい男がさらにひきたちますわね」
「そ、そうか?」
「おだてられてすぐ調子にのるところは、まだまだって感じだけどね」
博斗は笑った。
それに応えて、遥達も笑った。
これが、戦いを前にしてほんのわずかの間だけ博斗達に訪れた、最後の団欒だった。
「急ぎましょう。一刻でも伸ばせば伸ばすほど、マヌが私達を妨害するために手を打ってくる可能性が高くなってしまいます」
「ところでひかりさん。ムーの本拠には、どうやって乗り込むんだ? 相手はイツア島にいるんだぞ? 飛行機でもチャーターするのかい?」
「ご心配なく。私達は――帝国ということですが、物質を瞬時に移送する扉を多くつくり、世界の各所に配置することで容易に移動します。私が帝国からここに来るときにも使いましたし、おそらく怪人やシータさんやピラコチャが陽光に来るときにも使っているはずです。いまは、彼らの厳重な監視下におかれていると思いますが…」
「監視もなにも突破するまで。その扉は、どこにある?」
「高藻山の麓に」
「高藻山! そんな近くにあったのか!」
「夏合宿のときの御笠山もそうですし、日本には、まだまだ数知れない移送扉があるんですよ」
「博斗先生! 行きましょう!」
博斗は、号令をかけた。
「行くぞ! 陽光生徒会、出撃だ!」
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