10

博斗はひかりに深々と頭を下げた。


「申し訳ない! すべて、俺のせいだ! いままで、快治さんが守り通してきたパンドラキーを、みすみす奪われてしまうなんて、もうなんというか…顔をあげることすら恥ずかしい…」


「博斗さん…お願いですから…」

ひかりは、博斗の苦しみは自分の苦しみだというように、顔をきつく歪めていた。


「シータ…いえ、稲穂さんは利用されていたのです。裏を返せば、博斗さんが彼女のことをそれだけ信頼し、大切に想っていたということではないのですか? そのような心を持つ博斗さんを、いったい誰が責められるというのですか?」


「誰が責めなくても俺自身が」

博斗はうめいた。

「いままでの俺達の苦労はなんだったと? 遥達になんて説明しろと?」


「博斗さん。説明などしている余裕はありませんよ。マヌはすぐにでもパンドラキーを使って行動を開始するはずです。いま、私達が早急に手をうたなければならないことはひとつです。一刻の猶予もありません」


「なにをしろと?」


「宮殿に乗り込み、マヌがパンドラキーを始動させる前に、再びパンドラキーを奪い返すのです」


博斗は、あんぐりと口を開けて、信じられないという顔でひかりを見た。


「彼らもホルスを失っています。戦力は大幅に低下しているはずです。もし、私達にいくらかの可能性が残されているとすれば、いましかないのですよ、博斗さん」


博斗は、ひかりを見た。

「勝ち目はあると思うか? パンドラキーを手に入れたマヌに?」


「わかりません。可能性があることは確かです。しかし、それがまた小さいものだということも事実です。いずれにせよ、時間が経つにつれ望みはゼロに近づいていくでしょう」


博斗は眼を伏せた。

「わかった。やるしかないんだろう。けど、気になることが…」


「シータさんのことですね? 彼女とも戦わなければならないのか、と?」

「……」


「戦いの鍵を握っているのは彼女だと思いますよ。彼女がマヌにつかまっている限りは、私達に勝ち目はない。彼女を引き戻すことが出来れば、勝ちの芽が見えてくるでしょう。博斗さん。シータさんとは戦う必要があるかもしれません。いえ、戦わなければならないと思います。マヌは彼女を使ってくるでしょうから。戦って、彼女を引き戻すのです。仮面を再び剥がし、正気に戻すのです!」


「言うは易し、行なうは難し。昔の人はいいこと言ったもんだな」

博斗は自嘲気味に笑った。


「やろう。もはや全力をもって立ち向かうほかに、打つ手はない。いま俺がもっとも恐れるべきは、マヌじゃないんだ。俺自身の、余計な気の迷いだ。行こう、ひかりさん。そろそろ五人も来るはずだ」

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