四人がぶつかるたびに空間に陽炎が起き、ただの体の衝突以上のなにか強い衝撃が起きていることをうかがわせた。


「レッドはどうしているんだ?」

博斗は、四人の危機に、レッドの姿を探した。


レッドは、いつの間にかオオダコムーの死角に移動していた。

そして、片膝をついて身を低くして、身じろぎ一つしていない。


「レ…」

言いかけた博斗を、ひかりが止めた。


「彼女は、なにか策があるのでしょう。それで、仲間達のダメージにもじっと堪えて、チャンスを待っているのです。ほら、レッドの傍らの地面を見てください」


レッドが片膝と片腕をついているアスファルトが、なにかをしているわけでもないのにじふじぶと溶けている。


「抑えているのか…自分を。あの腕をアース代わりにしているんだ…」


博斗は、感情を見事に抑えているレッドの忍耐に目を見張ったが、しかし、そうしている間にも、幾度となく四人の体は打ち合わされていく。


始めのうちは四人の悲鳴が聞こえていたが、いまではそれも聞こえなくなった。

失神してしまったのか。

「まだなのか…レッド。なにを待っているんだ…?」


「ヒョーヒョヒョヒョヒョヒョ! 今度は四人の頭を鉢合わせてやりましょう!」

オオダコムーが、四本の肢をぐわっと広げ、そして一気に頭上に向けて振り上げた。


「いまだっ!」

レッドがやにわに飛び出した。

その手にリボンが出現し、そして四人の頭をぶつけるためにぐっと間隔が狭まっていたオオダコムーの四本の肢を、みるみる束ねていった。


「あたし達が五人いることを忘れてもらっちゃ困るわね!」

レッドはオオダコムーの四本の肢を束ねて花のつぼみのように絞り上げた。


「ぐ、ぐぎゃああっ!」

オオダコムーが絶叫した。

四本の肢がリボンの締め付けに抗しきれずにすべて切断された。


緑の血をこぼしながら、四本の肢と、それに捕らえられたままの四人が地面に落ちた。


レッドはいったん着地すると、すぐに次の攻撃の構えに入った。

「ごめん、みんな。しばらくあたし一人でなんとかするから、休んでて。肢を四本もなくしたんだから、ダメージも大きいはず」


「レッド! どんなに体が柔らかくなっても、核になっている部分は必ず存在する! そこを叩くんだ…!」


「わかりました!」

レッドは、両手にクラブを取り出して、振りかざしながらオオダコムーの頭上に跳んだ。


「ケケケケッ! オシリスの指示は間違ってはいませんよ! 僕の頭部には頑丈な核が存在しますとも。しかし…」


レッドのクラブがオオダコムーの頭部を叩いた。

げんなりとオオダコムーの頭が歪む。


「このまま、もっと奥まで、叩き伏せてやるわ!」

レッドのクラブは、オオダコムーの頭部を凹ませてどんどん力強く下降していく。


「…しかし、どんなに力をこめても、僕の核には到達できないのです!」

オオダコムーが言い放った。


それと同時に、突然レッドの手から手応えが消えた。

「クラブが…! 逃げる…!?」


レッドのクラブは、オオダコムーの表面の粘液で滑り、するりとすっぽぬけてしまった。


「ケーッケケケッ! 力を入れれば入れるほど、僕の表皮の粘膜を破ることは困難になるのですよ! 僕の頭部は自在に配列を変えることが出来ますからね!」


「くそっ! 厄介な奴だ!」


「この僕には、お前達の肉弾攻撃などすべて無効なのです! そして、蛸の肢は四本で終わりではありません。くらいなさいっ! 触手レイピアッ!」


ホルスの背後から、五本目の肢が飛び出した。

今度の肢は、錐状の鋭利な先端をもって、落下中で無防備なレッドの胸板を目指して直進した。


レッドは恐怖に声を失った。

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