マントが消えたあとにホルスの上半身はなく、代わりに奇怪な上半身が姿を現していた。


ホルスの上半身は、蠢く巨大な蛸と化していた。

腰の周りには飾り物のように八本の肢が垂れ下がり、水っぽい音を立てながら蠢いている。


異様に肥大しているようにも見える頭部が、ほんらい首のあったあたりまで突き出ていて、脇の下であっただろうあたりに、小さく赤く光る二つの目がついていて、ぐるぐるとせわしなくあたりを見回している。


粘液質の表面に光が反射しててらてらと輝いている。

まさに、巨大な蛸が腰から上に生えているかのようだ。


肢の二本が、腕のようににゅっと突き出した。

「ケーケケケ! これこそが、最強怪人オオダコムーの姿です! この僕の前には、いかなる者も敵ではない!」


「みんな、気をつけろ! こいつは普通の怪人とはなにか違うぞ!」


「まあ、見てなって」

桜が皮肉っぽい口調で言った。

「ほんとに違うかどうか、これから判断しようじゃないの」


「よしっ」

遥はうなずいた。

「行くわよ!」


遥以下、五人は、完全に同じタイミングできれいに左腕を前に突き出し、右手を左腕の腕章に添えた。

「念焼、スクールファイブ!」


赤、黄、黒、青、緑の五色の噴き出す火柱が巻き上がった。

「おおっ!?」

噴き上がった炎は瞬く間に消え、わずかに残った炎の残滓を糸のように身にまといながら、スクールファイブが現われた。


オオダコムーが早くも二本の肢を伸ばして来た。

「くらいなさい!」


ブルーとグリーンは、迫ってきたオオダコムーの肢を両腕で抱えこんだ。


「なにっ!?」

皮肉にも自らの肢によって動きを封じられたオオダコムーの頭頂部に、イエローとブラックの錐揉みキックが左右から食いこんだ。

オオダコムーの頭が、スポンジのように大きく歪んだ。


「決まった!」

博斗はうなずいた。


しかし、博斗の横でひかりが静かに首を横に振った。

「いえ。あれを見てください」


「オオダコムー、軟体防御!」

オオダコムーがそう言い放つと、オオダコムーの頭が今度は飴のように真ん中からねじ曲がった。


「抵抗が…!」

イエローは悲鳴を上げた。

引っかかりのなくなったイエローとブラックは、滑り出して空中に浮いた。


「キョーキョキョキョキョ! オオダコムーは体を軟体化させ、体皮から粘液を出すことによって、あらゆる攻撃のショックを和らげることが出来るのです!」


オオダコムーの背中から新たに二本の肢が伸び、頭上のイエローとグリーンの背中にベタリと貼りついた。


「今度はこっちの番です! オオダコムー、吸盤アーム!」

オオダコムーは、そのまま肢を振り回し、イエローとブラックを空中で衝突させた。


「痛いっ!」

「…っ!」


「なにしてるんだ、イエロー、ブラック! 早くその肢から離れろ!」

博斗は二人に叫んだ。

「だ、駄目です! 信じられないような力で…!」


新しい悲鳴が起きた。

ブルーとグリーンだ。

「な、なに、これ!?」

「は、剥がれない…!」


オオダコムーの肢を抱えこんでいた二人が、逆に巻きついてきたその肢に絡めとられ、宙に持ち上げられた。


「そうれ、お前達も楽しいショーの仲間入りですよ!」

オオダコムーは、二人を持った肢を振り回し、イエローとブラックに空中でぶち当てた。


「きゃっ!」

「ぐうっ!」


オオダコムーは、すぐに四人を引き剥がすと、また勢いをつけて再び頭上で鉢合わせにした。

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