6
マントが消えたあとにホルスの上半身はなく、代わりに奇怪な上半身が姿を現していた。
ホルスの上半身は、蠢く巨大な蛸と化していた。
腰の周りには飾り物のように八本の肢が垂れ下がり、水っぽい音を立てながら蠢いている。
異様に肥大しているようにも見える頭部が、ほんらい首のあったあたりまで突き出ていて、脇の下であっただろうあたりに、小さく赤く光る二つの目がついていて、ぐるぐるとせわしなくあたりを見回している。
粘液質の表面に光が反射しててらてらと輝いている。
まさに、巨大な蛸が腰から上に生えているかのようだ。
肢の二本が、腕のようににゅっと突き出した。
「ケーケケケ! これこそが、最強怪人オオダコムーの姿です! この僕の前には、いかなる者も敵ではない!」
「みんな、気をつけろ! こいつは普通の怪人とはなにか違うぞ!」
「まあ、見てなって」
桜が皮肉っぽい口調で言った。
「ほんとに違うかどうか、これから判断しようじゃないの」
「よしっ」
遥はうなずいた。
「行くわよ!」
遥以下、五人は、完全に同じタイミングできれいに左腕を前に突き出し、右手を左腕の腕章に添えた。
「念焼、スクールファイブ!」
赤、黄、黒、青、緑の五色の噴き出す火柱が巻き上がった。
「おおっ!?」
噴き上がった炎は瞬く間に消え、わずかに残った炎の残滓を糸のように身にまといながら、スクールファイブが現われた。
オオダコムーが早くも二本の肢を伸ばして来た。
「くらいなさい!」
ブルーとグリーンは、迫ってきたオオダコムーの肢を両腕で抱えこんだ。
「なにっ!?」
皮肉にも自らの肢によって動きを封じられたオオダコムーの頭頂部に、イエローとブラックの錐揉みキックが左右から食いこんだ。
オオダコムーの頭が、スポンジのように大きく歪んだ。
「決まった!」
博斗はうなずいた。
しかし、博斗の横でひかりが静かに首を横に振った。
「いえ。あれを見てください」
「オオダコムー、軟体防御!」
オオダコムーがそう言い放つと、オオダコムーの頭が今度は飴のように真ん中からねじ曲がった。
「抵抗が…!」
イエローは悲鳴を上げた。
引っかかりのなくなったイエローとブラックは、滑り出して空中に浮いた。
「キョーキョキョキョキョ! オオダコムーは体を軟体化させ、体皮から粘液を出すことによって、あらゆる攻撃のショックを和らげることが出来るのです!」
オオダコムーの背中から新たに二本の肢が伸び、頭上のイエローとグリーンの背中にベタリと貼りついた。
「今度はこっちの番です! オオダコムー、吸盤アーム!」
オオダコムーは、そのまま肢を振り回し、イエローとブラックを空中で衝突させた。
「痛いっ!」
「…っ!」
「なにしてるんだ、イエロー、ブラック! 早くその肢から離れろ!」
博斗は二人に叫んだ。
「だ、駄目です! 信じられないような力で…!」
新しい悲鳴が起きた。
ブルーとグリーンだ。
「な、なに、これ!?」
「は、剥がれない…!」
オオダコムーの肢を抱えこんでいた二人が、逆に巻きついてきたその肢に絡めとられ、宙に持ち上げられた。
「そうれ、お前達も楽しいショーの仲間入りですよ!」
オオダコムーは、二人を持った肢を振り回し、イエローとブラックに空中でぶち当てた。
「きゃっ!」
「ぐうっ!」
オオダコムーは、すぐに四人を引き剥がすと、また勢いをつけて再び頭上で鉢合わせにした。
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