5
時間が来たときには、快治を除く全員が、校門の前に立っていた。
博斗は、固唾をのんでホルスの来訪を待った。
やがて正門の向こう側から、誰かが歩いてきた。
黒ずんだ灰色のマントを風になびかせ、滑るようにやってきた。
博斗はいぶかしんだ。
ホルスは単身だ。
誰一人ひきつれていない。
戦闘員も、怪人もいない。
ホルスの足が正門を越えようとしたとき、遥の勇ましい声が飛んだ。
「待ちなさい! そこから先に踏み込むことは許されない!」
博斗達の見ている前で、ホルスはゆっくり顔を上げた。
その顔には、ひきつった笑みが貼りついている。
しかし、そこには追いつめられたものの狂気とおぼしき色は微塵も感じられなかった。
むしろ、自信さえ伺えた。
相当に強い自信。
「許されなければ、こちらから通るまでです。お前達の力で僕を止められますか?」
「止めてみせるわよ!」
博斗は首をひねった。
なぜホルスの他に誰もいないのか。
「イシス! これが最後の選択です。そんな連中のことは放っておいて、こっちに来るのです!」
博斗は横目でひかりをちらり見た。
ひかりの表情には微塵も動揺の色はない。
「どうした、イシス! さあ!」
ホルスが再度呼びかけると、ひかりが、聞いたこともない厳しい口調で言い返した。
「未練がましいと思いませんか、ホルス!」
「!?」
ホルスはよもや妹からこんな叱責を受けるとは思っていなかったのだろう。
見るからにたじろぎ、言葉を受けただけだというのに後退した。
「私はもう、あなたとの血のつながりよりも強いつながりを別にもっているのです。あなたも一人の男なら、力づくで私を取り戻してみなさい! それが、私があなたへ妹としてせめて言ってやれる最後の言葉です」
言い終わっても、ひかりは最初からの硬い表情を崩していなかった。
静かな立ち居だが、博斗でも触れることをためらうような強い決意がそこにはみてとれた。
「その通りよ!」
遥が、ひかりの言葉を継いだ。
「あんたとひかり先生になにがあるか、あたし達はよく知らないけど、なんにしたって、ひかり先生のところに行くには、あたし達を負かさないとダメよ」
「ありがとう、みんな…」
ひかりが、今日はじめて微笑んだ。
対照的に、ホルスは表情を歪めた。
負の感情が一斉に表に噴き出したようなひどい表情をしていたが、瞳だけはぎらぎらと生気を持って輝いた。
口元もわずかにつりあがって薄笑いさえ浮かべているようだ。
その笑いが、博斗には気になって仕方がなかった。
絶対の有利を確信しているかのような表情。
「ふふふ。はーはははははっ」
突然、ホルスは背をのけぞらせて笑った。
「それなら力ずくで奪うまで!」
その言葉が引き金になったように、遥達がやや拡散して戦闘隊形をとった。
自然に、博斗はひかりに近づき、ガードするような格好になった。
「心配するな。あんなタコ野郎にひかりさんは絶対渡さない」
「いいですとも。イシス、そして、邪魔する者はすべて、殺してくれましょう!」
「はん!」
翠が、からからと笑うホルスを鼻で一笑した。
「貴方でわたくし達に勝てると思って? あなたのご自慢の最強怪人とやらはどこかしら?」
「ふふ。ふふふはははは」
動作では笑わず、言葉だけが笑いを紡いだ。
「最強怪人、ですか…。そんな見たいのですか、お前達は? 自分達の死刑執行人を?」
「ごたくはいいから、いるならさっさと出しなさいですわ! どうせ貴方じゃ勝負にならないのですから!」
「けけ、いいでしょう。このプロフェッサー・ホルス、一世一代の発明。最強にして最後の怪人が、お前達の相手をしてやるとしましょう!」
「…しましょう、ったって、どこにその怪人がいるっていうんだ…?」
博斗が首を傾げると、ひかりがつぶやいた。
「ひょっとしたら、まさかホルスは…」
「なんだ、ひかりさん?」
「ホルスが言う最後の怪人とは、おそらく…ホルス自身です!」
「なんだって!?」
博斗はホルスを見た。
「その通り。ひひ、ひひひひ」
ホルスが狂気じみた笑い声を上げながら、ゆっくりとマントを体の前に掲げ、自分の上半身を覆い隠した。
「さあ…見るがいい、プロフェッサー・ホルスの恐怖の正体を!」
ホルスは、マントを放り投げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます