17

マヌの指が一気に仮面を跳ね上げた。


仮面はあっけなくぽーんと取れ、どこかに飛んでいった。


マヌはこのショーの効果を確かめるように、博斗をじっと見下ろしていた。


ピラコチャはへたくそな口笛を吹いて下卑た笑い声を上げた。


ホルスはマヌと同じような歪んだ笑いを顔に貼りつけていた。


ひかりは直視に耐えられず、目をそむけた。


翠達は、見ているものが信じられず、あ然としていた。

由布でさえ口をOの字に空けていた。


遥は、硬直していた。

泥のなかに埋まっているみたいに、恐ろしく緩慢に首を横に振った。


シータの仮面は強引に剥がされた。

その素顔もまた、唐突に外気にさらされた。


現れた稲穂の顔は、目をきつく閉じ唇をきつく噛み、少しでも素顔の露出を避けようと、うつむいていた。

稲穂の頬に、涙の筋が見えた。


あのシータが。

泣いている。


博斗の呪縛は解けた。


だが、博斗が走り出したときには、マヌは、ぐったりとしたシータの体を抱えあげていた。

「よい玩具が手に入った。今日はここで引き上げだ。ピラコチャ! ホルス!」


ピラコチャとホルスが、マヌの命令に応じて空に飛び、そして、三人は並んで哄笑しながら空に染みるように姿を消した。


見上げていた博斗は、足元のアスファルトの盛り上がりに足を取られて転んだ。

熱いアスファルトに両の拳を叩き付け、ただ意味もなく吠えた。

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