第四十八話「名誉ある戦い」機械化怪人オオダコムー登場

第四十八話「名誉ある戦い」 1

ごんごん。

乱暴なノックの音がした。

こういうノックをするのはピラコチャしかいない。


「どうぞ、入りなさい」

ドアをばたんと開けて、ピラコチャが踏みこんできた。そして足を止めた。

「な、なんだ、それは…」


「見てわかりませんか? これが、僕のつくりだした最強の怪人ですとも。はじめから余計な怪人など造らず、こうしておけばよかったのです」


ピラコチャは畏怖していた。

力と迫力は誰にもひけをとらないという自らの自信が、さきの戦いと、そしてこの最強の怪人の前に、脆くも瓦解していた。

ピラコチャは、自分がもはや帝国にとってなんの用も成さない兵隊の一員に成り下がってしまったのではないかと、そのちっぽけでカビの生えた脳味噌で憂慮した。


ホルスは、そんなピラコチャの思惑を見透かしたか、ピラコチャの顔を覗きこんだ。

「さて。この最強怪人の前には、いかなる敵も存在しないと言えますが、しかしピラコチャ。万が一のことも考えねばなりません」


「しかし、最強怪人がやられるということになっては、総帥直々に出ていただくしかねえ」


「いや。総帥が出る前に、あなたが出るのです」

ホルスの言い方は有無を言わさぬものだった。


「いいですか、ピラコチャ。神官コアがあと一つ残っています。そのコアを怪人に埋めこむための増幅装置に、若干の仕様変更を施しておきました」

「仕様変更?」


「ええ。制御機構を取り外したのです。したがって、増幅に一切の制限なく、一度きりの使い捨てでコアを埋めこむことができることになります」


「そうすると実際どのぐらい強さが違うものなんだ?」

「それはなんとも計り兼ねますね。そもそもコアの移植そのものが、潜在的な意志力という、どうにでも上下する可能性のある力に依拠しているのですから」


「んじゃあ、それを使ったところで、最強怪人を上回る怪人をつくれる保証はねえってことだな…」

ピラコチャは舌打ちした。


「いいえ。確実に、最強怪人をも超える、まさに破壊兵器と呼ぶにふさわしい怪人を生む方法があるのですよ」


ホルスは、ぴちゃりとピラコチャの頬を撫でた。

「神官コアを自らに移植すればよいのです。その操作が可能なようにすでに装置は改良済みです」

「そ、そうか…! その手があったか!」


「ただし…!」

ホルスがピラコチャの笑いを遮って言った。

「…僕が消えてしまえば、移植後の調整、管理を出来る人間はいません。すなわちコアを埋めこめば、いずれ有り余るパワーに体が耐えきれなくなり、あなた自身も間違いなく死ぬことになります」

「……」


「最後の手段として残しておきます。もし僕が戻ってこないとき、スクールファイブと刺し違えて死ぬ覚悟があるのであれば、お使いなさい」

ホルスは、湿った足音を立て、去っていった。


ホルスが出ていくと、途端に全身から緊張感が抜け、ピラコチャは、ほっと息をついた。


最強怪人でさえ敗れる可能性もある。

それほどスクールファイブ達は手強い。

ピラコチャも、身を持ってそれは実感していた。


ホルスは土産を残していった。

自らの体と命を代償として、誰よりも高い力が手に入る。

この俺に…。


ピラコチャは、この男にしては神妙な顔で、それから長いこと考え続けた。

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