14

博斗は、ひかりを追わなかった。

心を、落ち着かせたい。


この戦いは、なんてつらく苦しいんだろう。

一つの苦しみから無限の苦しみへ、永遠の地獄へ。


遥のたくましさが俺にもほしい。一つ二つのことでへこたらずに、それを糧にして立ち上がることが出来る、あの五人の強さが、ほしい。


ひかりさん。

俺の知らないなにかが、ひかりさんにはある。


過去―オシリスとイシスが別れてから、俺の知らないところで、ひかりさんはなにかをしたのだ。

なにか、現代まで続く途方もない計略を立てた。


…俺には、わからない。

なぜ、ひかりさんがそこまで思いつめるのか。

わかっているのかもしれないけれど、わかりたくもない。


俺の選択は、ひかりさんに冷たかっただろうか。


いや。

ひかりさんは、ああなることを予想していた。


そのうえで、俺とひかりさんを、肉体以上のレベルで結束させるために、あんな形をとった…。

つまり、ひかりさんは身をひいたんだ。


俺に、彼女を助けろと、そう言っている。

自分のような苦しみを味あわせてはならない、と。


そう。

俺は、決めたんだ。


あの叫びに。


彼女が、はじめて心から絞り出したあの叫びに俺は応えなければならない。


必ず。

なんとしても。

助けなければ。


博斗の意識に、昨日から思い出そうとせずに、出来るだけ意識の深層に沈めていた記憶が這い上がってきた。

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